RI不要のDIGシステムで、より高感度なin situハイブリダイゼーションを

RI不要のDIGシステムで、より高感度なin situハイブリダイゼーションを

RIを使わない標識法「DIGシステム」とは

in situハイブリダイゼーション法(in situ hybridization: ISH)は、ライフサイエンス実験において欠かせない技術です。特定の遺伝子の遺伝子座を明らかにしたり、染色体異常を検出したり、組織内のmRNAの局在を細胞レベルで明らかにしたりと、臨床・研究を問わずに幅広く用いられています。

ISH法では核酸を標識する必要がありますが、ロシェ社が開発した「DIGシステム」は、放射性同位体元素(ラジオアイソトープ:RI)を用いずに標識できる方法です。この記事ではDIGシステムの原理やRIとの使い分けについて解説をしていきます。ぜひ、DIGシステムに詳しくなって、実験や研究に活用してください。

DIGシステムの検出原理

DIGシステムは、酵素免疫法によってプローブとターゲットの結合を検出する方法です。まずは、dUTPにDigoxigenin (ジゴキシゲニン:DIG)と呼ばれるステロイド化合物を標識します(下図参照)。このDIG-dUTPを用いて核酸を合成することで、プローブにDIGが標識されます。

dUTPとDIGが結合している様子

続いて、プローブをターゲットmRNAにハイブリダイズします。

ターゲットにプローブが結合したら、DIGを特異的に認識するアルカリホスファターゼ(AP)標識抗体を反応させます。すると、下の模式図のように、mRNA―プローブ―DIG―AP標識抗DIG特異的抗体というつながりができます。

DIGシステムの模式図

ここにCDP-StarCSPDといった基質を加えると、APによって加水分解が起き、化学発光します。この化学発光によって、ターゲットの存在する場所を検出することができるのです。このように、発色沈殿や発光を生じる基質で検出する抗体を「酵素標識抗体」と呼びます。

この原理を利用して、ロシェ社ではHNPP Fluorescent Detection Setというキットを販売しています。このキットのAP基質は、高感度検出に適した蛍光沈殿を生み出します。

高感度検出なら発光法、手軽さなら発色法を

DIG標識プローブの化学発光を検出する際には、まずCSPDCDP-Starが第一の選択肢です。これらの基質はジオキセタンフェニルリン酸グループに属する化合物であり、APによって脱リン酸化を受けます。このリン酸化が進むと、形成された中間体の分解作用により、発光が生じます。その結果X線フィルムが露光され、ターゲットが検出されるのです。このような検出方法を発光法といいます。

発光法は、その名前の通り発光によってターゲットを検出する方法です。これに対して、発色法と呼ばれる手法もあります。その発色法は、蛍光ではなく、色を呈して検出する手法。一般にはBCIPとNBT等の酸化還元系を形成する2種類の基質(無色)を併用します。BCIPはAPにより脱リン酸化され、濃青色の沈殿を生じる基質です。同時にNBTは還元され、NBTジホルマザンを生じます。この2つの化合物により、濃青色あるいは褐色の不溶性の沈殿物が形成されます。

発光法は、発色法に比べて次のような利点があります。

  • 検出感度が高く、0.03 pgのホモログDNAも検出可能
  • 反応時間が短く、10~20分でシングルコピー遺伝子を検出可能
  • リプロービングが容易
  • AP反応開始後、48~72時間中は複数回の露光が可能

対して、発色法には発光検出するための機材が必要ないという利点があります。感度を重視するなら発光法、簡便さを求めるなら発色法を選ぶのがおすすめです。実際にシグマ アルドリッチ社が提供する化学基質については以下のリンクを参照してください。

実験に応じて抗体標識を使い分ける

ここまでは酵素標識抗体を用いて検出する方法を紹介しましたが、標識がAP以外のDIG抗体も販売されています。実験に応じて標識を使い分けることが可能です。

標本を微細に観察したいのであれば、金コロイドが結合したDIG抗体を用いるのが適切です。金コロイドを標本に付加することで、電子顕微鏡を用いた観察が可能になります。

多重染色を行うのであれば、蛍光標識抗体を用いるとよいでしょう。DIG抗体に直接蛍光標識が施されているため、蛍光顕微鏡を用いて観察することができます。

また、DIG標識されたプローブと併用してBiotin標識されたプローブを使用することで、一度に様々な染色体領域やRNA配列の同定することも可能です。こういった多重染色実験においては、FITC標識(緑)、TRITC標識(赤)、AMCA標識(青)…といった、抗体に結合済みの蛍光色素の多様性が鍵となります。DIGシステムは、抗体や発色試薬を変えるだけで異なる実験に対応できます。将来的に別の実験や研究を行う場合に、容易に対応できるという点も優れたポイントなのです。

RIとDIGシステムの比較

プローブを用いた核酸の検出方法では、古くはRI(ラジオアイソトープ)による検出方法が主流でした。RI法は、プローブにRIを標識することで検出する方法です。今でも「non-RI法は感度が悪い!」と先入観を持つ読者もいるかもしれません。しかし、近年はDIGシステムがRI実験よりも優れていることを示す数多くの論文が発表されています。

以下に、RI法と比べた時のDIGシステムのメリットを示しました。

  • RI法よりも感度が高い
  • 露光時間が短い(数時間や数日ではなく数分間)
  • 安全(危険な物質、環境汚染物質への接触が無い)
  • プローブが再使用可能で、少なくとも1年は安定

DIGシステムは、核酸のラベリングにおいて多くの実績を残しています。検出方法が発色や発光、蛍光の3方式から選択できることも、RIにはない利点です。また、学術誌に公開されるレベルのデータには、検出に高い特異性が要求されます。その点ジゴキシゲニンは、ジギタリスの花と葉以外、自然界には存在しません。このため、DIG抗体は他の生体物質と結合することがなく、高い特異性が保証されているのです。

DIGシステムの使用用途はin situ ハイブリダイゼーションにとどまりません。プローブとなるDNAやRNAを安全・効率的に標識できることを利用して、以下の手法にも用いることができます。

  • サザンブロッティング、ドットブロッティング
  • ノーザンブロッティング
  • アレイ
  • コロニーハイブリダイゼーション
  • ELISA

DIGシステムのメリット

DIGシステムの利点をまとめると次のようになります。

  • 特異性: DIG抗体は他の生体物質と結合することがない。
  • 多用途:フィルタハイブリダイゼーションとISHの両者に対応している。
  • 実証済: RI実験よりも優れていることを示す数多くの論文が発表されている。

DIGシステムの導入により、様々な実験の感度や安全性を高めることができます。「non-RI法は感度が悪いのでは?」と考えている人も、DIGシステムを利用した実験なら納得のいく成果を得られるかもしれません。メルクには、高親和性の抗DIG抗体や、アルカリホスファターゼ(AP)、ペルオキシダーゼ(POD)、FluoresceinやRhodamineなど、各種標識された抗DIG抗体も取り扱っています。また、長年にわたる経験から確立したプロトコールもあるため、すぐに実験をスタートすることもできます。この記事で興味を持たれたら、ぜひDIG説明書集(PDF) もチェックしてみてください。