RNAi実験の基礎 siRNAのトランスフェクションプロトコール
遺伝子ノックアウトとノックダウンの違い
ゲノム編集で特定の遺伝子コードを変更する「ノックアウト」では、遺伝子の機能は完全に除去されます。一方、短い二本鎖RNA断片を細胞内に導入して標的mRNAの働きを抑制する「ノックダウン」は、結果的には遺伝子の機能を強力に阻害しますが、完全に除去されることはありません。ノックアウトと比べたときの、ノックダウンのメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
-
遺伝コードを変化させないため、遺伝子の機能を一時的に低減させ、また回復させることができる。
-
単一クローンを単離する必要がないため、少ない労力で行える。
-
遺伝子機能を完全に除去すると細胞傷害を起こす遺伝子の場合、ノックダウンなら部分的な抑制なので細胞障害を起こす可能性が低くなる。
一方で、対象の遺伝子産物を細胞から完全に排除したい場合や、既存の変異を野生型に戻したい場合などはノックダウンではなくノックアウトを用いるほうがよいでしょう。メリット・デメリットをふまえたうえで、実験の目的によって、適切な実験手法を選ぶことが大切です。 二本鎖RNA断片が相補的な塩基配列を持つmRNAを分解する現象をRNA干渉(RNAi)と呼びます。特定の遺伝子をターゲットにして作成した短鎖干渉RNA(siRNA)や短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を細胞内に導入すると人工的にRNAiを起こすことができ、任意の遺伝子の発現をノックダウンできます。 この記事では、siRNAを付着細胞に導入するプロトコールを紹介します。
無料PDF(MISSION®RNAi 総合カタログ)はこちら
付着細胞へのsiRNAトランスフェクションプロトコール
siRNAの細胞への導入はトランスフェクション試薬が用いられます。
<使用する試薬>
MISSION® siRNA Transfection Reagent
付着細胞へのトランスフェクション法にはフォーワードトランスフェクション法とリバーストランスフェクション法があります。フォーワードトランスフェクション法の場合は、前日までの準備が必要ですが、リバーストランスフェクション法では、トランスフェクションと細胞培養を同じ日に行います。
■フォーワードトランスフェクション法による付着細胞へのトランスフェクション
<事前の準備>
-
トランスフェクションの前日に細胞を30~50%コンフルエントにしておく。
-
24ウェルプレートの場合、一般的に15,000~35,000個の細胞をトランスフェクションの24時間前に撒くとよい。その他の場合の目安は、表1を参照すること。
-
使用するsiRNAの最適濃度を決めるために、最終濃度1~30 nMの範囲でテストする。
<フォーワードトランスフェクション法のプロトコール> ※24ウェルプレート、最終濃度5 nMのプロトコール(1ウェルあたりの量)
-
3pmolのsiRNA duplexを血清を含まない培地100 μLで希釈する。
-
トランスフェクション試薬2μLを手順1のsiRNA溶液100 μLに添加し、すぐに混ぜる。
-
混ぜてから10 ~ 15分間、室温でインキュベートする。(1時間以内に手順5に進むこと)
-
インキュベーション中に前培養した細胞から培地を除去し、あらかじめ温めた新しい培地(血清を含む)を500 μL 入れる。トランスフェクション時に抗生物質が含まれていても構わない。
-
手順3で準備したトランスフェクション試薬とsiRNAの混合液を4の細胞に添加し、穏やかに揺り動かすようにして混ぜる。ここで最終液量は600 μLになる。
-
トランスフェクションした細胞を細胞培養用インキュベーターでインキュベートする。一般的にトランスフェクションから24~ 96時間後に遺伝子発現抑制の効果を測定する。より長時間インキュベートする場合は、適宜培地を交換する。
■リバーストランスフェクション法による付着細胞へのトランスフェクション
<事前の準備(実験当日)>
-
siRNAとトランスフェクション試薬の混合液を準備し、細胞を入れる前の各ウェルに分注する。細胞は希望する濃度に希釈して、siRNAとトランスフェクション試薬の混合液が入っているウェルに添加する。
-
それぞれの細胞数とプレートサイズは表2を参照すること。
<リバーストランスフェクション法のプロトコール> ※96ウェルプレートでsiRNAの最終濃度10 nMのプロトコール(1ウェルあたりの量)
-
トランスフェクション試薬1 μLを各ウェルに入れる。オートディスペンサーを用いる場合、トランスフェクション試薬と水を1:5で希釈し、各ウェルに5 μL入れる。希釈したトランスフェクション試薬は24時間以内に使用すること。
-
次に150 pmolのsiRNA duplexを血清を含まない培地5 mLで希釈してマスターミックスを準備する。
-
手順2のマスターミックス50 μLを手順1の各ウェルに添加する。
-
ボルテックスして10秒間混ぜ、10 ~ 15分間インキュベートする。(1時間以内に手順5に進むこと)
-
細胞を7,500 個含んでいる完全培地100 μLを手順4の各ウェルに添加し、プレートを穏やかに揺り動かすように混ぜる。ここで1ウェルあたり150 μLでsiRNAの最終濃度は10 nMになる。
-
トランスフェクションした細胞を細胞培養用インキュベーターでインキュベートする。一般的にトランスフェクションから24~96時間後に遺伝子発現抑制の効果を測定する。より長時間インキュベートする場合は、適宜培地を交換する。
以上、siRNAのトランスフェクションのプロトコールを2種類紹介しました。 ターゲットの遺伝子のノックダウンはsiRNAの配列によって効率が異なります。siRNAは自分で配列を決めて作ることもできますが、あらかじめ理論的にノックダウン効率の高い配列がデザインされたsiRNAも市販されていますので、うまく使い分けて効率よくノックダウンを成功させましょう。
【オンライン技術相談】shRNAライブラリー
shRNAライブラリーについて、技術相談を実施しています。概算費用や製品紹介、その他具体的な相談など、お気軽にご相談ください。
<無料PDFダウンロード>
MISSION® RNAi 総合カタログ
このカタログではRNAiの原理やプロトコル、使用する製品についてご紹介しています。
▼こんな方にオススメ
・RNAiの基礎を学びたい方
・これからRNAi実験に取り掛かる予定の方
・MISSION RNAi製品ならではの特長を知りたい方
無料PDF(MISSION®RNAi 総合カタログ)をダウンロードする
下記フォームでは、M-hub(エムハブ)に対してのご意見、今後読んでみたい記事等のご要望を受け付けています。
メルクの各種キャンペーン、製品サポート、ご注文等に関するお問い合わせは下記リンク先にてお願いします。
*入力必須