DNAサンプルをクリーンアップする方法
エタノール沈殿―DNAサンプルを濃縮する
細胞から抽出したDNAサンプルは、濃縮や不要物の除去を行って精製する必要がありますDNAの精製には様々な方法がありますが、DNAのエタノール沈殿は、ライフサイエンス実験の中で最も頻繁に行われる操作の1つでしょう。 DNAはエタノールに溶けないため、溶液にエタノールを加えるとDNAは沈殿しやすい状態になります。ここに、一価陽イオンを加えるとDNAの荷電が消えて凝集しやすくなり、DNAが沈殿します。この沈殿を回収すれば、濃縮されたDNAを得ることができます。 以下にエタノール沈殿のプロトコールを紹介します。
<必要な試薬>
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酢酸ナトリウムバッファー3M、 pH 5.2……(4℃が理想的)
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冷やした100% エタノール※(-20℃が理想的)
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冷やした70% エタノール(滅菌した脱イオン水で希釈したもの)(-20℃が理想的)※100%エタノールとは希釈していないエタノールのことで、一般的には規格99.5%以上のエタノールが用いられます
<プロトコール>
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DNAサンプル溶液を適切な大きさのチューブに入れる。チューブに入れる量はチューブの容量に対して1/4以下になるようにする。例)1.5mLチューブの場合、DNA溶液は375μL以下
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イオン濃度を平衡化させるため、DNA溶液に対して1/10倍量の3M酢酸ナトリウム溶液を入れる。
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DNA溶液に対して2~3倍量の冷却した100%エタノールを加え、-20℃で1時間以上静置する。
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4℃、最大速度(12,000~13,000 rpm)で15分間遠心する。
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沈殿を崩さないよう注意しながら、ピペットやシリンジなどで上清をできるだけ取り除く。上清を取り除き切れない場合は再度遠心して上清を除去する。
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冷却した70% エタノール 250 μLを添加する。
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4℃、最大速度で5分間遠心する。
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200 μLのピペットなどで上清を取り除き、室温または37℃で上清の残りを乾燥させる。乾燥させすぎるとペレットが溶けにくくなるので注意すること。
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希望する量の水またはTEバッファーで、ペレットを溶解する。4℃での作業は必須ではないが、低濃度のDNAサンプル(<20 ng/μL)では4℃のほうが効率的。
RNase処理―DNAサンプル中のRNAを除去する
マキシプレップによって抽出したプラスミドDNAサンプルにはRNAが混在しています。以下に、RNase処理によってDNAサンプルからRNAを取り除く方法を紹介します。
<必要な試薬>
<プロトコール>
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マキシプレップしたプラスミドDNAサンプル溶液を50 mL 遠沈管に入れ、5 mLのTEバッファーで希釈する。
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50 μLのRNase A溶液(20 mg/mL)を添加し、室温で30分間インキュベートする。
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5 mLのフェノールを添加し、1分間ボルテックスなどで激しくシェイクし、スイング型のローターを用いて最大速度で15分間遠心する。
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しばらくチューブを静置し、徐々に上部の水層と中間層が生じるまで待つ。上層をピペットで新しいチューブに移し、5 mLのクロロホルムを加えて1分間激しくシェイクまたはボルテックスし、同様に最大速度で5分間遠心してスピンダウンする。
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チューブを静置して層が分離するのを待ち、上層(5 mL程度)をピペットで15 mL 遠沈管に移す。水層に対して10%の5 M 過塩素酸ナトリウム溶液(通常は500 μL)と水層に対して80%の5 M 過塩素酸ナトリウム溶液(通常は4 mL)を加える。
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チューブをパラフィルムでシールして数分間よく混ぜる。HB4などスイング型のローターで10,000 rpm、15分間スピンダウンする。
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上清を捨て、キャップを開けたまま室温または37℃でペレットを乾燥させる。乾燥させすぎないように注意する。
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乾燥させたペレットを500 μLのTEバッファーで溶解し、滅菌済みのマイクロチューブに移し、4℃で保存する。
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アガロースゲル電気泳動などでDNAを確認してRNAの混入がないことを確かめる。DNAの濃度と純度は分光光度計で測定することができる
フェノールクロロホルム抽出―DNA溶液中の酵素を除去する
DNAのクローニングでは様々な反応条件のプロセスがあるため、バッファーの交換や、酵素を除去する作業が必要になります。この目的で、簡便で経済的なフェノールクロロホルム抽出はよく行われますので、手順を確認しておきましょう。
<必要な試薬>
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イソプロパノール(2-プロパノール)
※フェノールは接触するとただちに皮膚の火傷などを引き起こす危険性があり、接触、吸引、摂取すると有害です。安全性データシート(SDS)をよく確認して使用しましょう。
<プロトコール>
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50 μLのDNA溶液を1.5 mLマイクロチューブに入れ、50 μLのTE、50 μLの平衡化中性フェノールを添加する。
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ふたをしっかり閉めて、サンプルが乳液状になるまでボルテックスする。ここでタンパク質は変性してフェノール層に移動し始め、DNAは水層に留まる。
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100 μL のクロロホルムを添加し、ふたをしっかり閉めてボルテックスする。ここでDNAとタンパク質は完全に分離する。
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最大速度(12,000~13,000 rpm)で5分間遠心する。
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しばらく静置し上層が分離するのを待ち、上層(水層)をあらかじめ100 μLのクロロホルムを入れた1.5 mLマイクロチューブに移し入れる。
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ふたをしっかり閉めてボルテックスし、最大速度で2分間遠心する。遠心後10 μLの5 M 過塩素酸ナトリウム溶液を添加して混ぜる。
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110 μL のイソプロパノールを加え、ふたをしっかり閉めてボルテックスし、最大速度で15分間遠心する。
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上清を注意深く捨て、再び、最大速度で1分間遠心する。
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ペレットを崩さないよう注意しながら細いピペットまたはシリンジなどで残りの上清を除去する。ペレットの反対側から上清を吸い取ると比較的容易になる。チューブの壁面にも溶液が残らないよう気をつける。
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ふたを開けたまま室温で1分間置いて乾燥させ、適切な容量のTEバッファーなどで溶解する(30~50 μL)。
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ボルテックスの合間に氷上に置くようにし、ペレットが完全に溶けるまでボルテックスを断続的に行う。
以上、DNAサンプルのクリーンアップでよく使われる実験方法を紹介しました。手順が多いので、大事なサンプルを途中で減らしてしまわないように集中して行いましょう。また、フェノールなど人体に害のある薬品の取り扱いには充分に気をつけましょう。 PCR反応液のDNAクリーンアップには専用のキットGenElute™ PCR Cleanup Kitを使うこともできます。人体に有害なフェノールを用いないため安全性が高く、多くの人に利用されています。実験の状況に応じて、ぜひ使ってみてくださいね。
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