分析前処理に使う精密ろ過フィルターの選び方
フィルター選びの4つのポイント
分析前処理用に分類されるフィルター製品には様々な種類があります。各メーカーのカタログにはそれぞれの特長が書かれていますが、実際の用途に適した製品を選択する際には判断が難しいことも少なくありません。
この記事では、分析前処理によく用いられる精密ろ過フィルター選択のポイントを「デバイス形状」「ろ過メンブレンの材質」「フィルター孔径」「考慮すべきその他の条件」の4つに分けて紹介します。
デバイス形状
サンプル量に応じた適切なデバイスの選択は、ろ過実験において極めて重要です。すなわち、ろ過デバイスは形状や使用法によってホールドアップ量(ろ過後、デバイスに残存する液量)が異なるためです。さらに、不適切なサイズのフィルターでは目詰まりの多発や過剰な吸着によって試料の回収率が大きく低下することもあります。フィルターデバイスの選定の際はまず、サンプル量とデバイスの処理量目安から、適切な形状のフィルターを選びましょう。
遠心式フィルターはシリンジフィルターよりもホールドアップ量が少なく、微量試料の処理に適しています。多くの場合、試料ボリュームが数10〜数100 mL程度なら加圧式のシリンジフィルターが、それ以下では遠心式フィルターが、それ以上では吸引式フィルターが使用されます。
小量サンプルでは、シリンジフィルターでも遠心式フィルターでも問題なく処理できる場合があります。その場合にさらに検討すべきポイントは作業性です。検体数が多いときは、手作業で実施する加圧ろ過より、遠心ろ過による同時処理の方が効率的です。また、サンプル量とその性質が大きくばらつかない条件であれば、ホールドアップ量が均一になりやすい遠心ろ過の方が作業時間や回収率などを含めた前処理全体の作業効率が高くなる傾向があります。
ろ過メンブレンの材質
デバイス形状が決まったら、試料の種類(性質)に基づいてフィルター材質を選定しましょう。ここでは、メルクで扱っている代表的な精密ろ過膜の材質とその特性を紹介します。
- OmniporeTM(材質:親水性PTFE)
特長:低溶出・低吸着
適用サンプル:有機溶媒、極性溶媒(強酸・強塩基)、水溶液
表面が親水化処理されたPolytetrafluoroethylene(PTFE)メンブレンです。PTFEは高い化学適合性を持っており、もともとは疎水性です。親水化された PTFEは無極性溶媒にも極性溶媒にも適合し、水溶液から有機溶媒まで幅広いろ過に使用できます。メンブレン成分の溶出が少ないため、高感度分析にも適しています。 - Durapore®(材質:親水性PVDF)
特長:タンパク質極低吸着
適用サンプル:低極性溶媒、酸・塩基、水溶液
表面が親水化処理されたPolyvinylidene Fluoride(PVDF)フィルターです。タンパク質成分のフィルターへの吸着には疎水性相互作用の寄与が大きいと言われていますが、Duraporeの親水化技術はタンパク質の吸着を限りなく低く抑えます。そのためDuraporeは、タンパク質やペプチドの分析前処理に適しており、多くの実績があります。 - Express PLUS®(材質:親水性PES)
特長:目詰まりしにくい、タンパク質低吸着
適用サンプル:アルコール等の低極性溶媒、一部の酸・塩基、水溶液
Express PLUS はメルクブランド中 Durapore に次いでタンパク質吸着が少ないフィルターであり、一般的な精密ろ過用 Polyethersulfone(PES)膜と比較してもおおむね1/2あるいはそれ以下のタンパク質吸着量です。Express PLUSのもう一つの特長は、細孔が一次側(サンプル側)から二次側(ろ液側)にかけて小さくなっていることです。この傾斜孔径が、複数の孔径のメンブレンを使用した多段階ろ過と同様に、目詰まりをしにくくしています。 - MF-MilliporeTM(材質:セルロース混合エステル)
特長:高コストパフォーマンス
適用サンプル:水溶液
精密ろ過膜の先駆的存在だった、通称「ミリポアフィルター」です。適応が親水性サンプルに限定されますが、多くの実績と長い歴史があり、他の膜材質よりもコスト面で優位です。そのうえ、PTFEよりも目詰まりしにくい特性があるため、現在も分析分野で広く使われています。
フィルター孔径
HPLCサンプルに対する前処理ろ過(除粒子)は、分析装置の検出感度向上やカラム充填剤保護のために実施されます。これには孔径0.45μmの精密ろ過膜が一般的ですが、近年はUPLCをはじめとした微細なカラム充填剤を使用する分析装置が一般的になりつつあり、孔径0.22μmのメンブレンフィルターが選択される機会も増えてきました。
<フィルター孔径選択の目安>
- 0.1 μm:マイコプラズマ除去
試薬や培地からのマイコプラズマ除去には孔径0.1μmのフィルターが使用されます。Mycoplasma属は真核生物に寄生する最小の真正細菌の一群で、宿主の代謝や表現型を変化させます。そのため細胞を用いる試験はマイコプラズマ陰性が必要条件です。しかし、細胞サイズが0.2〜0.3μm程度で、細胞壁がなく不定形なマイコプラズマは一般的な滅菌用フィルター(孔径0.22μm)を通過するため、注意する必要があります。 - 0.22 μm:分析サンプル前処理
UPLC等の微細充填剤を使用する分析機器用の、サンプルの前処理に使われます。 - 0.22 μm:滅菌
一般的なろ過滅菌に使われる孔径です。 - 0.45 μm:分析サンプル前処理
HPLC 用サンプルの分析前処理に使用される一般的な孔径です。 - 0.8 μm:除粒子
薬剤中のアンプル片除去など、比較的大きな夾雑物を除去するために使用されます。
考慮すべきその他の条件
最後に、特定の条件下で高い効果を発揮し、分析結果や作業性が大きく改善する可能性があるろ過デバイスを紹介します。
- プレフィルター内蔵シリンジフィルター(製品名:HPFマイレクス)
単一デバイス中にプレフィルターと精密ろ過膜が装着されているタイプのフィルターです。プレフィルターが目詰まりの原因となる大きな粒子を取り除くので、ポリマーやナノ粒子など粒子密度が高い試料のろ過に適しています。プレフィルター内蔵シリンジフィルターは、プレフィルターがない同等品よりもおおむね2〜4倍の処理量を実現します。メルクのマイレクス HPFでは、2枚のプレフィルターと1枚の精密ろ過膜が装着されていて、目詰まりしやすいサンプルの前処理ろ過に多くの使用実績があります。 - HPLC 分析用フィルター(製品名:HPLCマイレクス)
あらかじめイソプロパノールで洗浄済みのOmnipore膜を装着し、HPLCによる溶出物試験を実施済みのフィルターユニットです。カラム前端容量以降は、214nmおよび254nmの検出波長において0.004AUよりも大きなピークが発生しないことを確認済みのため、プレ洗浄等を実施せずに使用できます。 - イオンクロマトグラフィー用フィルター(製品名:IC マイレクス)
外部からのイオンコンタミネーションを抑え、イオン抽出レベルや流出粒子を確認済みのイオンクロマトグラフィー用フィルターユニットです。 - 自動化適合フィルター(製品名:オートメーションシステム用マイレクス)
自動溶出試験機など各種オートメーションシステムでの使用に最適化されたデザインのマイレクスです。耐圧試験等、オートメーションに特化した厳格な品質管理のもとで生産されています。
フィルターデバイス選定後は……
使用するサンプルとフィルターデバイスが過去に実績のある組み合わせであっても、実施する試験の目的が異なると使用に適さなくなる場合があります。下の表を参考に、新規実験の実施前には可能な限り予備試験を実施するようにしましょう。
以上、分析前処理に使用する精密ろ過フィルター選択のポイントについて、詳しく見てきました。フィルターを適切に使い分け、収率や分析結果の向上、作業の効率化を実現しましょう。
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