意外と知らない限外ろ過の基礎知識
限外ろ過の基礎知識
限外ろ過技術はシンプルな内容ではありますが、体系的に整理して学ぶ機会の少ない技術です。この記事では限外ろ過の基礎知識について「ろ過の種類と限外ろ過」「限外ろ過膜の構造」「公称分画分子量とは」「濃度分極とその解決」の4つに分けて説明していきます。
ろ過の種類と限外ろ過
ろ過とは、粒子径に基づいて液体から小さな分子を分離するプロセスをいいます。使用する膜の種類によって「粗ろ過」「精密ろ過(Micro-Filtration: MF)」「限外ろ過(Ultra-Filtration: UF)」「逆浸透(Reverse Osmosis: RO)」などがあります。
それぞれ簡単に説明していきましょう。まず、粗ろ過は、10 µmよりも大きい粒子を分離し、フィルターの目詰まりを防ぐための前処理などに用いられます。精密ろ過は、約0.05~10 µmの粒子を分離し、滅菌操作などに使われます。限外ろ過は、約1~1,000 kDa(ダルトン)の分子の分画または濃縮に用いられます。ろ過膜上には、ある程度大きいタンパク質は保持されますが、塩や水は膜を通り抜けるため、タンパク質の濃縮などに有効です(ただし、分子量の小さいタンパク質は通り抜けます)。高分子物質の回収と低分子物質の回収、どちらの目的にも用いることができます。逆浸透は、極めて低分子量の成分を分離することができ、多くの場合、水の精製に用いられます。
膜の孔径は、粗ろ過では公称孔径、限外ろ過では「公称分画分子量」で表されます。また、精密ろ過では「孔径」または、粗ろ過や限外ろ過の“公称”に対して「“絶対”孔径」といいます。
- 粗ろ過(>10 µm)
捕捉:赤血球、花粉、毛髪
透過:微生物、微粒子
用途:粒子除去/捕捉、試料の清澄化、前ろ過 - 精密ろ過(0.05~10 µm)
捕捉:微生物(酵母・大腸菌)、微粒子
透過:タンパク質、ウィルス、マイコプラズマ
用途:粒子除去/捕捉、細胞培養・分析、ろ過滅菌 - 限外ろ過(1 nm〜0.05 µm)
捕捉:タンパク質、ウィルス、マイコプラズマ
透過:糖、アミノ酸、塩
用途:ウィルス濃縮、タンパク質濃縮、核酸精製 - 逆浸透(<1 nm)
捕捉:糖、アミノ酸、塩
用途:水の純化、脱塩
限外ろ過膜の構造
限外ろ過膜は2つの層で構成されています。表側の面上にあるのがスキン層で、この表面で分子を捕捉します。その下に、サポート層という粗い層があり、非常に薄いスキン層を支える役割を果たしています。
このように、限外ろ過膜には表裏があるので、表側のスキン層からろ過を行うよう気をつけて使いましょう。また、スキン層はろ過性能に関わる大切な層で、特に繊細なので触らないようにしましょう。
一方、精密ろ過膜は基本的には 1 層構造で、膜内部は均一なスポンジ構造になっています。したがって、ろ過をするにあたり表裏はありません。(※メルクの Millipore Express®PLUSのように、非対象構造を有した特殊な精密ろ過膜もあり、このような膜の場合には表裏があるので気をつけてください。)
公称分画分子量とは
精密ろ過膜の孔径は●●μmというように長さの単位で表され、それより大きい粒子は膜上に捕捉されます。一方、限外ろ過膜の孔の大きさは●●kDaというように分子量で表されます。この数字を公称分画分子量、またはNMWL(Nominal Molecular Weight Limit)といいます。
公称分画分子量(NMWL)は、実際に様々なサイズの分子をろ過して、その阻止率から決定しています。これには、デキストランなど、分子量のわかっている物質が用いられ、これを標準物質といいます。
例えば、分子量5 kDaの標準物質の阻止率が10%、分子量30 kDaの標準物質の阻止率が50%、分子量100 kDaの標準物質の阻止率が90%の膜の場合、分子量が100 kDa程度の分子をほとんど捕捉できるので、この膜の NMWLは100 kDaと決定されます。
NMWLは完全捕捉を保証するものではなく、同じ分子量でも、分子の形状や性質によって捕捉率は変化するので注意しましょう。また、NMWL が同じ膜でも、材質やメーカーによって捕捉性能が異なることがあります。
濃度分極とその解決
膜表面に保持された分子が蓄積して層となり、これ自体がフィルターの役割を果たしてしまうことがあります。これによって、ろ過スピードの低下に加え、本来であれば膜を透過する小さな分子が阻止されるようになり、その結果、流束(一定時間に単位面積当たりの膜を透過する液量のこと)の低下などを招きます。これを濃度分極といいます。
この濃度分極を解決する方法として、タンジェンシャルフローというろ過様式があります。一般的なろ過は液の流れとろ過のための圧力が同じ方向(下図左:ノーマルフロー)ですが、膜表面に沿って並行方向に液を流すことで膜表面は常に洗い流されます(下図右:タンジェンシャルフロー)。分子が留まらないため、本来のろ過性能が発揮されます。
限外ろ過デバイスの中には、濃度分極を低減させる工夫がされているものもあります。たとえば、メルクのAmicon Ultraシリーズでは、膜を斜めに装着することで膜表面に分子が蓄積することを防いでいます。撹拌式セルでは、撹拌子の回転により濃度の偏りが抑えられます。
以上、限外ろ過の基礎知識について、順番に説明しました。仕組みや数値の定義を理解することで、より良い実験系の構築やデバイスの選択ができるようになるはずです。限外ろ過をマスターして、これからの研究に役立ててください。
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