ACSクロマトグラフィー賞受賞!Janusz Pawliszyn博士インタビュー

ACSクロマトグラフィー賞受賞!Janusz Pawliszyn博士インタビュー

科学界と産業界の連携がイノベーションを生み出す

クロマトグラフィー分野で、新たな手法を開発した研究者に与えられるACSクロマトグラフィー賞。1970年から、メルクがスポンサーを務めてきました。

2018年は、固相マイクロ抽出(以下、SPME)法の開発者としても有名なWaterloo大学のJanusz Pawliszyn博士が受賞。これは、全カラムイメージング検出(以下、WCID)技術の発明、開発、および商品化に大きく貢献したことが評価されたものです。

以下、SPME研究に至ったきっかけ、そしてWCIDについて、Pawliszyn博士ご本人に語っていただきました。

―メルクのミッションは「世界の科学界と協力して産業界の最も難しい問題を解決する」ことですが、先生がこれまで産業界のパートナーと協力してこられたエピソードを教えてください

私は自分自身を発明家だと捉えているので、他の人が考えたことがない概念を提唱すること、つまりパラダイムシフトを起こすことに全力を注いでいます。ただし、私は技術を発見できても、それをユーザーに届け、日常的に使えるようにすることはできません。そのためにはパートナーが必要です。

今回、ACSクロマトグラフィー賞を受賞したWCID技術は、キャピラリー等電点電気泳動法と組み合わせて商用化しました。最初に商用化のパートナーとなったのは、Convergent Bioscience社ですが、後にこの会社はProtein Simple社に買収されました。

また、1990年代初期にはSupelco社と共同でSPMEを開発し、商用化まで行いました1。この協力関係は今も続いています。とは言え、技術に焦点を当て続けるのは容易ではありません。なぜなら、会社が買収・売却されたり、組織の戦略が変わったり、人々が転職したり異動したりすることがあるからです。

私の役割は、技術を常に新鮮で興味深いものにし、イノベーションの重要性を科学界に示すことです。産業界にパートナーを持つことは、こうした概念を実用化するために必要不可欠なのです。

ブレークスルーを起こしたSPME

―先生はSPME法の発明者として有名ですが、SPME研究に進むきっかけは何だったのでしょうか。

私は常日頃からグリーンテクノロジーの開発に関心を持っていました。しかし、皮肉なことに、ライフサイエンスの研究において、私たちは大量の有機溶媒や試薬を使っています。私はそれらをもっと環境に配慮した方法に置き換えられないかと考えていました。

1980年代後半、私は検出システムの構成要素として超臨界流体抽出装置と光ファイバーを用いたり、微少流体デバイスを使用したりしていました。そのとき、レーザー脱離後に光ファイバーを使って試料を分析システムに導入できないか、つまり試料をGCのインジェクターに直接揮発させられないか、と考えたのです。これがSPME研究に取り組むきっかけでした。

それ以後、私の研究グループでは、さまざまな異なるファイバークラッドや被膜を試し、分析対象物やマトリックスごとの吸着脱離のプロセスを最適化する実験を行うようになりました。

最初のファイバーホルダーには注射器の一部を用いました。SPMEが完成し、最初に試みた実験は、クラッドのないむき出しのファイバーを用いた水中でのBTEX化合物の分析でした。

―SPMEは、臨床および医学研究所での血液や組織のサンプリングといったライフサイエンスに応用され始めています。医学界や科学界がSPMEに大きな期待を寄せている理由は何でしょうか。

細いファイバーなら、生検のように組織を傷つけることはありません。これは明らかに大きな利点です。外科医に限らず、筋肉や脳の障害について研究している科学者たちも、非破壊的な組織サンプリングが可能であるSPMEに大きな関心を寄せています。

さらにSPMEは、固体だけでなく液体も扱うことができます。メタボロミクスでSPMEを用いる場合は、分析対象物を識別できるだけでなく、与えられた組織の代表的な代謝物対象もすべて識別できるという大きなメリットがあります。このようなSPMEの応用例としてはこの他に、息を分析してガンのバイオマーカーを検出するものもあります。

SPMEは、組織、体液、息といったあらゆるタイプの生物試料の非侵襲的マイクロサンプリングを実施できる点において、他に類を見ない手法です。大きな可能性を秘めた技術だと思います。

私たちは、基礎研究と実際の用法に関しても多くの情報を得ており、また、実際に使用してうまくいっているという数多くの証拠も確認しています2

―先生のeメールの署名欄には「人生は実験室です。試してみなさい」(“Life is a laboratory. Experiment.”)という引用文が書かれています。これは先生にとってどのような意味を持っているのでしょうか。

私がこの引用文を通して伝えたいのは、「人生は誰かが、もしくは何かが行った実験である」ことです。そして、「だからこそ、それを調べ、質問し、答えを探しましょう」と伝えたいのです。

SPMEの技術を生物学にどう応用するか。私がこの課題に惹かれるのは、まさにこの点なのです。SPMEは、どうすれば人生がうまくいくかを理解するのに役立ってくれるはずです。

サンプルを採取した現場で分析可能にした技術

―ACSクロマトグラフィー賞の受賞対象となったWCIDとSPMEとの関連について教えてください。

WCIDは、光学イメージング技術とカラム分離を組み合わせた検出技術です。2つの技術を組み合わせた目的は、サンプルを採取した「現場」で分析することにあります。仮にそれが難しいとしても、可能な限り迅速な分析とスクリーニングを目指してWCIDを開発しました。

SPMEに光ファイバーを使い始めた頃、私はイメージング技術にも関心がありました。イメージングは通信業界でも利用される技術です。LEDやレーザーダイオード、電荷結合素子(以下、CCD)といった部品は安価で購入することができたため、それらを組み合わせ、コンピューターと接続すれば画像を読み込むことができると考えたのです。

例えば、100ミクロンという小さなキャピラリーの中を、肉眼で直接見ることはできません。しかし、キャピラリーの中心に光を導き入れ、その下にCCDを置くよう光学設計すれば、キャピラリー内に存在するものを分光法で検出することができます。

とりわけ、等電点電気泳動法にはこのアプローチが適していました。分離したタンパク質はキャピラリー内部で直接検出できるため、移動ステップとその後のバンド分散がなくなり、より高い分解能が期待できます。また、タンパク質が等電点に泳動するのを待つだけで済みます。キャピラリーは非常に短いため、セットアップを小型化することができます3。この装置が、ライフサイエンス分野において、非常に重宝されるようになったことは当然の流れだと思います。

25年後のACSクロマトグラフィー賞

ー最後に、2043年のACSクロマトグラフィー賞の受賞理由を予想していただけますか?

新しいグリーンテクノロジーが受賞すると思います。考えられる可能性は二つあります。

一つは、実験室で有害物質を使用しなくなり、溶媒や試薬類の使用を減らしたり完全になくしたりすることに関係するものです。

もう一つは、その技術を必要とする場所ですぐに使用し、正確な答えをその場で導くことができるもの。実験室に試料を送り返したり、確認のためだけに実験室に頼ったりせずに済むようになる器具が設計できるようになるといいですね。

 

参考文献

  1. Arthur, C. L.; Pawliszyn, J. Solid phase microextraction with thermal desorption using fused silica optical fibers. Anal. Chem., 1990, 62, 2145-2148.
  2. Reyes-Garcés, N.; Gionfriddo, E.; Gómez-Ríos, Md., G. A.; Alam, N.; Boyacı, E.; Bojko, B.; Singh, V.; Grandy, J.; and Pawliszyn, J. Advances in Solid Phase Microextraction and Perspective on Future Directions (Review). Anal. Chem., 2018, 90 (1), 302–360.
  3. Wu, X-Z.; Liu, Z.; Huang, T.; Pawliszyn, J. Whole-column imaging- detection techniques and their analytical applications. TrAC-Trends in Anal. Chem. 2005, 24, 369-382.

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