固相マイクロ抽出(SPME)法の理論と条件の最適化

固相マイクロ抽出(SPME)法の理論と条件の最適化

シンプルで安価な抽出法「SPME」の特長

有機環境汚染物質や香料など、揮発性物質を分析するためには、分析対象物を何らかの方法で濃縮する必要があります。しかし、多くの場合、濃縮には複雑な装置を要するうえ、時間もかかります。また、大量の有機溶媒の使用が必要になることもしばしばです。

カナダのWaterloo大学で開発された固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction 以下、SPME)は、これらの問題を解決するシンプルかつ効率的な吸脱着技法です。SPMEには以下のような特長があります。

<SPMEの特長>

  • 複雑な装置が不要で、安価に分析可能
  • 抽出に溶媒を一切使用しない
  • 固体、液体及び気体いずれの試料からも抽出可能
  • 必要サンプル量が極微量(液量約100 μL以上)
  • 迅速な分析、および短時間での抽出が可能(10~30分)
  • 操作が簡単、熟練した技術を必要としない
  • GCやHPLCによる分析対象物の分離/検出と組み合わせが可能

これらの特長を活かしたSPMEの適用範囲は広く、環境、食品・香料、医薬品などの分析に利用することができることに加え、水中の界面活性剤、生体体液中の薬品なども分析可能です。

以下、SPMEの原理と基礎について詳しく解説します。

SPMEの動作原理

SPMEは図1に示す様にSPMEホルダー(左)とファイバーアセンブリー(中)から構成されています。ホルダーはコーティングされたファイバーの保護と、試料を吸着/脱離するファイバーの露出をコントロールします。

図1 SPMEの構造

次に、固相マイクロ抽出のプロセスを図2に示します。

図2 固相マイクロ抽出のプロセス 吸着(上)と脱着(下)

プランジャーを押し下げると、ファイバーが中空のニードルの中に移動します。密閉しているセプタムにニードルを貫通させたのち、ファイバーを露出させ、試料または試料上部のヘッドスペース部に出します。これにより分析対象物がファイバー被覆部に吸着されます。

通常2~30分で吸着平衡に達します。平衡に達したらファイバーをニードルの内部に引き込んで試料バイアルからニードルを引き抜きます。最後に、ニードルをGCのインジェクターに導入すれば、吸着した分析対象物はそこで熱脱離し、GCカラムまたはSPME/HPLCインターフェースに運ばれます。

表1にSPMEと他の調製方法を比較した結果を示しました。SPMEは他の調製方法よりも時間が短く、精度も優れていることがわかります。

表1 SPMEと他の調製方法の比較

SPMEの最適化―高い精度を得るためには

SPMEでさらに高い確度と精度を得るためには、サンプリング時間やサンプリングパラメーター(捕集条件)を一定に保つことが重要です。また、バイアルの大きさ、試料体積、試料にファイバーを浸漬するときの深さなどの条件も揃えるようにしましょう。

SPMEファイバーからの分析対象物の脱離は、分析対象物の沸点、ファイバー被覆の厚さ、および注入ポートの温度によって決まります。よって、キャピラリーカラムの入口でゆっくり脱離してしまう化合物の場合は、冷却して低温にする必要があります。もしくは、冷却する代わりに、入口ライナーの内径を細くするとピークが鋭くなります。

従来の内径2 mmのライナーと内径0.75 mmのライナーの比較を図3に示しました。0.75 mmのライナーではピークがシャープになっていることがわかります。

図3 入口ライナーを細くすると改善される揮発性分析対象物のSPME/GC分析

低濃度の分析対象物から一貫した結果を得るためには、ファイバー被覆の極性と厚さ、サンプリング法、pH、塩析、試料の撹拌を確認する必要があります。特にサンプリング時間、温度、およびファイバー浸漬時の深さを一定に保つことは極めて重要です。

ファイバー被覆の極性と厚さを制御したうえで試料を常に撹拌し、必要に応じて試料のpHおよび塩分を調整すれば、SPMEによる極めて一貫性が高い定量が可能になります。

被覆のタイプや厚さを変更するほか、試料に電解質を加えたり、pHを変えたり、試料でなくヘッドスペース(またはその逆)をサンプリングしたりして分析条件を変えるのも有効な方法です。これにより、分析対象物の回収率を高めることや、化合物の揮発性に応じて適切に選択を変更することができます。以下、個別に解説していきます。

  1. ファイバーの種類
    ファイバー被覆が厚い場合は、薄い場合より分析対象物が多く抽出されます。そのため、揮発性の化合物をロスなくGC注入ポートに移送したい場合は、被覆が厚いファイバーを使用し、熱脱離中の高速拡散と高沸点化合物の放出を保つためには、薄い被覆を用います。厚い被覆は、高沸点化合物を試料マトリックスから効果的に除去しますが、脱離時間が延びて分析対象物が次の抽出に影響をきたす可能性があります。

    ファイバーはいろいろな種類があるため、最適なファイバーを予め評価して確認する必要があります。「SPMEファイバーKit」は複数のファイバータイプがセットになったキットです。まずはこれで評価を行い、最適なファイバーを見つけてから必要なファイバーを購入するのもおすすめです。

  2. 試料の調製
    試料に塩を添加すると、多くの分析対象物(特に極性化合物と揮発性物質)の抽出効率が大幅に向上します。微量の分析対象物には塩を添加するとよいでしょう。一方、分配定数が高い分析対象物の抽出を促進する場合、塩は不要です。妨害ピークが導入される可能性があるため気をつけましょう。

    試料のpHも結果に影響します。酸性化合物とアルカリ性化合物は、それぞれ酸性およびアルカリ性のpHで効率的に抽出されるため、塩とpHの組み合わせを最適化すれば、ヘッドスペースからの分析対象物の抽出を促進できます。分子は水中より気体中の方が速く移動するため、浸漬サンプリングよりヘッドスペースサンプリングの方が早く平衡に達します。

    試料の濃度についても注意が必要です。高濃度の場合、試料の体積が大きな意味を持ちます。高濃度の分析対象物を含む試料体積が大きい場合(> 5 mL)、試料から除去される分析対象物の量は濃度を変えた場合ほど多くありません。したがって、校正曲線全体での応答、とりわけ高分配定数の化合物の場合は線形ではなく指数的になります。また、低濃度では線形になることもあります。

    分析対象物の濃度は未知であることが多いため、試料体積は1 mL~5 mLに保つことをおすすめします。試料体積と校正標準体積は必ず同じでなければなりません。浸漬サンプリング技法を用いて分析対象物を抽出する場合、試料バイアル中のヘッドスペースを最小化しましょう。

  3. 注入ポート
    注入ポートの温度、注入ポートに挿入するファイバーの深さ、脱離時間といった脱離パラメーターもそのときの分析対象物に最適化しなければなりません。また、一度決めたパラメーターは一貫して使い続けましょう。

以上、SPMEの原理と基礎について簡単に解説しました。メルクのサイトにはさらに詳しく解説した「SPME基礎セミナー動画」も公開していますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

関連WEBサイト

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