身近な匂いから科学捜査まで!幅広く活躍する分析手法「SPME」とは

身近な匂いから科学捜査まで!幅広く活躍する分析手法「SPME」とは

香料分析からフェロモン探索まで幅広く活用されるSPME

固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction、略称SPME)をご存知でしょうか。SPMEはカナダのウォータールー大学のJanusz Pawliszyn氏のグループにより開発された溶媒を必要としない抽出法で、溶媒抽出法、ヘッドスペース法、固相抽出法などの従来の方法に比べて、抽出が迅速かつ単純で、安価に試料を濃縮し、高感度でガスクロマトグラフィー(以下、GC)測定ができることから、多くの分野で活用されています。

例えば、大気中の環境汚染物質の濃度測定や分布調査、水質分析、化粧品や食品中の香料分析などが挙げられます。また、食品などの品質管理の現場では異臭クレームにおける原因究明に用いられたり、農芸化学研究分野においては生き物や植物間相互作用物質である新規フェロモンの探索に活用されたりなどしています。

科学捜査などの法医学分野では、違法薬物使用者の判定に用いられることがあります。また、尿中や呼気中のにおい物質を測定することによって病気の診断に役立てるような試みも盛んに行われています。2020年の東京五輪をはじめ、世界的なスポーツ大会のドーピング検査においても活躍の場がありそうです。

SPME器具の構成と使用手順

SPMEを行う際の器具は図1のように、SPMEホルダーとファイバーアッセンブリーで構成されています。

図1 SPME器具の構成

SPMEファイバーアッセンブリーのニードルには、抽出に用いる液相や吸着剤が固定されたファイバーが格納されており、アッセンブリーとプランジャーを連動して動かすことで、試料を抽出・脱離させる仕組みになっています。

ファイバーによる抽出は水試料などの液中にファイバーを露出し浸漬させる「直接浸漬法」と、水や固体試料、気体試料のヘッドスペース中にファイバーを露出し抽出する「ヘッドスペース法」の2つの方法があります。

図2 SPME器具の使用方法

ヘッドスペース法では、試料中の揮発性物質だけをヘッドスペースから抽出・濃縮するため、試料液中の夾雑物である不揮発性成分がGCカラムに導入されず、良好な測定結果が期待できます。また、水試料を沸点近くまで加熱、撹拌することで試料中のPCB(ポリ塩化ビフェニル)のような揮発性の乏しい物質をヘッドスペース中の水蒸気より抽出・濃縮することもできます。

SPMEを用いて抽出を行い、GCへ導入するまでの工程は以下の通りです。

  1. 試料を入れたバイアルにファイバーを収納した状態でSPMEをセプタムに貫通させる。
  2. プランジャーを下げ、ファイバーを液中もしくはヘッドスペース中に露出させ、抽出・濃縮する。
  3. プランジャーを戻し、針内にファイバーを収納する。
  4. SPME針を試料バイアルから抜く。
  5. ファイバーを収納したままSPMEをGCセプタムに貫通させる。
  6. プランジャーを下げ、ファイバーをGC気化室内に露出して試料の熱脱離を行う。
  7. GC測定開始

SPMEファイバーは繰り返し利用できます。回数はサンプルの状態によりますが、数百回の連続使用例もあります。

図3 抽出からGCへ導入するまでの工程

図4にメルクで取り扱っているファイバーの種類、表1にその特性の一覧を示しました。微量の試料抽出や、様々な試料・夾雑成分に対応できるように10数種類のファイバーがあるので、参考にしてみてください。

図4 ファイバーの種類

表1 ファイバー種類と対象化合物

SPMEを用いた香気成分の分析例

実際にSPMEで分析した場合と、SPMEを使わない一般的なシリンジを用いたサンプリングでは、どのくらい分析結果が異なるのでしょうか。ビールとノンアルコールビールの香気成分の分析結果で比べてみました。

  1. SPMEを用いない場合(ガラスシリンジを用いたサンプリング)
    ビールとノンアルコールビールを一般的なガラスバイアルに入れ、ヘッドスペースの気相を捕集し、GCMSへ直接導入して測定した結果を図5に示します。

    図5 ガラスシリンジを用いてサンプリングした際における、ビールとノンアルコールビールのクロマトグラム比較

    グレーの線がノンアルコールビール、ブルーの線がビールのクロマトグラムです。ガラスシリンジを用いたサンプリングでは、どちらでも同じような主要成分ピークが検出され、クロマトグラムの形状も似通っていることから、大きな違いを判別することはできませんでした。

  2. SPMEを用いた場合
    SPMEによってヘッドスペースの気相を抽出・濃縮して測定したクロマトグラムを比較したものが図6です。

    図6 SPMEを用いたビールとノンアルコールビールのクロマトグラムの比較

    「ノンアルコールビールはビールよりも成分の複雑味にかけるのでピーク数も少ないのでは?」と予想した人もいるかもしれませんが、むしろピーク数はノンアルコールビールのほうが多いという結果になりました。

①と②の結果から、ガラスシリンジによるサンプリングより、SPMEを用いた分析のほうが特徴的な成分ピークを区別できることがわかりました。

SPMEを用いた試料の抽出方法は、環境分析、食品・香料分析、医薬品分析など多方面に適用されています。今回紹介した分野以外でも、SPMEが有効な場面がたくさん世の中に存在していることでしょう。新たな研究領域の創出、研究の新しいパラダイムが楽しみですね。