ICH Q3Dが加わった第十八改正日本薬局方と必要とされる水質とは?

ICH Q3Dが加わった第十八改正日本薬局方と必要とされる水質とは?

第十八改正日本薬局方とは

日本薬局方は、医薬品の性状および品質の適正を図るために必要な規格や基準、標準的な試験法などが定められた公的な規範書です*1。薬事行政、製薬企業、医療、薬学研究、薬学教育などに携わる関係者の知識と経験を結集して作成されており、それぞれの関係者に広く活用されるべき公共のものとして位置付けられます*2

日本薬局方の構成は、全般にわたって適用される「通則」、生薬全般に共通する事項についてまとめた「生薬総則」、製剤全般に共通する事項を記載した「製剤総則」、試験のための装置・操作法・判定法など、共通な試験法、医薬品の品質評価に有用な試験法およびこれに関連する事項をまとめた「一般試験法」、および「医薬品各条」からなっています*1。これらに加え、日本薬局方を補足する重要情報として「参考情報」があり、医薬品の品質を確保する上で、必要な参考事項や試験法などが記載されています*2

 

第十八改正日本薬局方における改正内容

日本薬局方の初版は明治19年6月に公布され、近年は5年ごとに改正が行われており、最新版である第十八改正日本薬局方は令和3年6月7日に告示されました*1

第十八改正日本薬局方は以下の「5本の柱」に沿って作成されています*2

(1) 保健医療上重要な医薬品の全面的収載
(2) 最新の学問・技術の積極的導入による質的向上
(3) 医薬品のグローバル化に対応した国際化の一層の推進
(4) 必要に応じた速やかな部分改正及び行政によるその円滑な運用
(5) 日本薬局方改正過程における透明性の確保及び日本薬局方の普及

5本の柱のうち、「(2) 最新の学問・技術の積極的導入による質的向上」の具体的な方策の一つとして、「国際的動向を踏まえた不純物の管理に係る整備」が掲げられました。これを受け、第十八改正日本薬局方には、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use、以下ICH)で制定された医薬品の元素不純物ガイドライン(Guideline for Elemental Impurities、以下Q3D)を踏まえた元素不純物の管理についての内容が取り込まれました*2

 

日本薬局方におけるICH Q3Dを踏まえた元素不純物の管理

第十八改正日本薬局方へのICH Q3Dの取り込みによる変更点は、通則34が新規に追加されたことと、一般試験法2.66の記載内容が変更されたことです。

新規に追加された通則34は、「日本薬局方の製剤は、原則として一般試験法の元素不純物に係る規定に従って適切に管理を行う。また、製剤、原薬及び添加剤などにおいて、当該管理を行った場合には、医薬品各条などで規定された重金属、ヒ素など元素不純物の管理は要しない」とされています*3

記載内容が変更された一般試験法2.66は、第十七改正日本薬局方第二追補で追加された「2.66 元素不純物試験法」に「参考情報 製剤中の元素不純物の管理」が合わさり、第十八改正日本薬局方では「2.66 元素不純物」として新たに記載されました(表1)*3,4

表1 第十七改正日本薬局方第二追補と第十八改正日本薬局方の「一般試験法2.66」

第十七改正日本薬局方
第二追補
2.66 元素不純物試験法 参考情報 製剤中の元素不純物の管理
(ICH-Q3Dガイドライン相当)
第十八改正日本薬局方 2.66 元素不純物
Ⅰ.製剤中の元素不純物の管理
Ⅱ. 元素不純物試験法

(出典元:厚生労働省. 第十七改正日本薬局方第二追補. 2019、厚生労働省. 第十八改正日本薬局方. 2021 より作表)

このように、ICH Q3Dを取り込んだ第十八改正日本薬局方では、元素不純物試験の指針が明確に示され、実務的な管理面での指針も整理されました。こうした変更点を踏まえ、第十八改正日本薬局方で示されている具体的な元素不純物試験法や、必要とされる水について、次に見ていきましょう。

 

第十八改正日本薬局方で規定されている元素不純物試験の水

第十八改正日本薬局方の「Ⅱ. 元素不純物試験法」では、元素不純物のレベルを評価するための分析手法として以下が示されており、元素不純物の種類に適した検出法を選択します。

・誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy、ICP-AESまたはInductively Coupled Plasma Optical Emission Spectroscopy、ICP-OES)
・誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry、ICP-MS)

また、ICP分析用水として、導電率が1 μS/cm(25℃)以下の水(水中に含まれる不純物が分析対象元素に干渉しないこと)を使用する必要があると規定されています。このICP分析用水の基準値を満たした水とは、どのようなものなのでしょうか*3

 

元素不純物試験に適した水とは?

第十八改正日本薬局方を含め、第十六改正以降は「医薬品等の試験に用いる水は、試験を妨害する物質を含まないなど、試験を行うのに適した水とする」と記載されており、試験の目的に適した水の使用が求められています。一方、第十五改正日本薬局方では「医薬品の試験に用いる水は、別に規定するもののほか、「精製水」とする」と記載されており、精製水の使用が規定されていました*5。一体なぜ、「精製水」規格ではなくなったのでしょうか? その理由について、以下に検証してみましょう。

精製水の水質基準値によると、導電率は2.1 μS/cm(25℃)以下であることから、精製水は元素不純物試験法でのICP分析用水の基準値である導電率が1 μS/cm(25℃)以下を満たしておらず、ICP分析用水として適切とはいえません。これに対して、一般的に研究や試験、分析で使用される超純水は、TOCが非常に少ない、比抵抗が18 MΩ・cm以上(25℃)、導電率に換算すると0.056 μS/cm(25℃)以下の水と定義されており、ICP分析用水の基準を満たしていると考えられます。

実際に精製水と超純水をICP-MSで分析し、元素不純物のレベルを比較したところ、精製水には約4.7 μg/L(ppb)(10億分の1)ものNaが含まれており、サンプル中の金属元素不純物濃度がng/L(ppt)(1兆分の1)レベルであった場合などでは、正しい結果を得ることができないことがわかりました。一方、超純水はNa以外の元素も含め、測定した全ての元素不純物濃度はng/L(ppt)レベルかそれ以下であったことから、μg/L(ppb)レベルはもちろん、ng/L(ppt)レベルの分析においても適した水質であることが示唆されました(表2)。

表2 局方精製水と超純水のICP-MS測定例

単位:ng/L(ppt)

    精製水(容器入り) 超純水
7 Li 0.1 < DL( N.D. )
23 Na 4699.3 0.42
24 Mg 6.7 < DL( 0.04 )
27 Al 305.3 < DL( 0.02 )
39 K 54.4 0.26
40 Ca 204.0 < DL( 0.12 )
52 Cr 7.0 < DL( 0.03 )
55 Mn 2.2 < DL( 0.05 )
56 Fe 14.7 0.1
59 Co 2.2 < DL( 0.01 )
60 Ni 9.3 < DL( 0.04 )
63 Cu 1.8 < DL( 0.04 )
67 Zn 2.6 < DL( N.D. )
107 Ag 1.0 < DL( 0.02 )
208 Pb 0.6 < DL( N.D. )

さらに、第十八改正日本薬局方の「2.66元素不純物」で示された元素不純物について、超純水による各元素のブランク値を、ICP-MSで調べました(表3)。その結果、「2.66元素不純物」で示された全ての元素において、数ng/L(ppt)以下であることが確認でき、やはり医薬品の元素不純物分析に適した水質であることがわかりました。

 

表3 第十八改正日本薬局方の「2.66元素不純物」で示された元素不純物のリストと、超純水による各元素のブランク値

単位:ng/L(ppt)、測定:ICP-MS

元素 クラス 超純水(BEC) 検出下限
Cd 1 0.06 0.20
Pb 1.37 0.33
As 3.10 0.91
Hg 0.49 0.25
Co 2A 0.30 0.11
V 0.72 0.39
Ni 0.76 0.18
TI 2B 0.50 0.21
Au 0.40 0.32
Pd 0.07 0.06
Ir 0.08 0.12
Os 0.28 0.23
Rh 0.16 0.26
Ru 0.69 0.19
Se 1.05 0.91
Aq 0.59 0.11
Pt 0.29 0.19
Li 3 0.00 0.00
Sb 0.06 0.11
Ba 3.90 0.50
Mo 0.62 0.36
Cu 0.19 0.11
Sn 0.47 0.85
Cr 2.10 0.37

※「クラス」は元素不純物の毒性(PDE値)および製剤中に存在する可能性に基づいて分類されている。

これらの結果から、医薬品の元素不純物試験では、精製水ではなく、超純水を使用することが望ましいと考えられます。医薬品の試験では、たとえ微量でも不純物が含まれていれば、結果に大きな影響を与えるため、水の選択は重要です。この機会に日々使用している水を見直してみるのはいかがでしょうか。

 

参照元
*1 厚生労働省. 「日本薬局方」ホームページ
*2 厚生労働省. 第十八改正日本薬局方作成基本方針
*3 厚生労働省. 第十八改正日本薬局方. 2021
*4 厚生労働省. 第十七改正日本薬局方第二追補. 2019
*5 厚生労働省. 第十五改正日本薬局方. 2006

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