HPLCやLC/MSに水質が及ぼす影響とは

HPLCやLC/MSに水質が及ぼす影響とは

水の規格とは

精度が求められる実験や試験、分析では、水質が結果に影響する場合があります。一般的に用いられる「純水」や「超純水」は、水道水に含まれる有機物や微粒子、イオンなどの不純物を、イオン交換樹脂やフィルターなどで物理的、化学的に取り除いたものです。

「純水」には、イオン交換水や蒸留水、逆浸透水(RO水)、RO膜と連続イオン交換によって精製されるElix(RO+EDI)水など様々な種類があり、水質は精製方法により異なります。また「超純水」は、逆浸透膜、イオン交換樹脂や活性炭、紫外線(以下UV)、限外ろ過膜などを組み合わせた方法で純水を精製したもので、比抵抗値(電解質の総量の指標:イオンが多く含まれるほど値が低くなる)が18 MΩ・cm以上の水のことを指します。

超純水や純水は、用いられる分野によって規格が定められています。例えば、工業用水や工場排水の試験や分析用の水のJIS規格が、「用水・排水の試験に用いる水(JIS K 0557)」です。

この規格にはA1からA4までのグレードがありますが、最も高いグレードの規格でも電気伝導率は0.1 mS/m以下(比抵抗値では1 MΩ・cm以上に相当)とされています*1。これは、「比抵抗値が18 MΩ・cm以上」という超純水の条件に比べると、かなり緩い基準になっています。そのため、精度が必要な実験や試験、分析では、当規格以上の水準の水質が必要になることがあります。

HPLCやLC/MSに求められる水質とは

水質が結果を左右する例として、「高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC)」や、「液体クロマトグラフィー質量分析(以下LC/MS)」が挙げられます。これらの分析では、水に含まれる不純物がバックグラウンドの上昇やゴーストピークの原因になることがあるため、分析に影響しない水を使う必要があります。

HPLCとLC/MSは、それぞれ「高速液体クロマトグラフィー通則(JIS K 0124)」、「高速液体クロマトグラフィー質量分析通則(JIS K 0136)」という規格によって仕様が定められており、水に関しても以下のように決められています。

  • 高速液体クロマトグラフィー通則(JIS K 0124)
    この規格で用いる水は、逆浸透法、蒸留法、イオン交換法、紫外線照射、ろ過などを組み合わせた方法によって精製した水で、分析に干渉しない水質のものとする。水質は比抵抗値、総有機物(TOC)、吸光度などを指標とし評価する*2

  • 高速液体クロマトグラフィー質量分析通則(JIS K 0136)
    この規格で用いる水は、逆浸透法、蒸留法、イオン交換法、紫外線照射、ろ過などの方法のいずれか、又は組合せによって精製した水で、分析に影響しない水質のものとする。水質は、抵抗率、TOC(有機体炭素)、吸光度などを指標とし、評価する*3

このように、HPLCやLC/MSで用いる水の精製方法や水質に関する基準値が明確に定められているわけではありません。そのため、分析者が精製方法による水質の違いを理解して、目的の実験に適した水を選択する必要があります。

図1は、様々な精製方法による水を移動相として用いた場合の、HPLCでのベースラインの比較です。

純水ではいくつかのゴーストピークがあり、蒸留水よりもイオン交換水のほうがピークの数が多いことがわかります。イオン交換水には蒸留水よりも多くの有機物が含まれることから、ゴーストピークが有機物に起因していることが推察できます。これらに対し、超純水ではベースラインが均一であり、HPLCの移動相溶媒として適していることがわかります。

図1 水質の違いによるHPLCのベースラインへの影響

(出典元:メルク株式会社(旧 日本ミリポア株式会社). 液体クロマトグラフィーへの適用. Technical Sheet 超純水装置. vol.7. Fig.1,2,4)

 

「超純水」と言っても、精製方法によって全有機体炭素(Total Organic Carbon、以下TOC)の値は変わります。

図2は、TOC値の異なる超純水が示すHPLCのベースラインを比べたものです。超純水のTOC値を下げる方法のひとつが、UV照射による有機物酸化分解です。UV照射などによりTOC値を抑えることで、ゴーストピークが少ない安定したベースラインを得られます。

図2 超純水のTOC値によるHPLCのベースラインへの影響

(出典元:メルク株式会社(旧 日本ミリポア株式会社). Milli-Q SP VOC水の環境分析への適用. Technical Sheet 超純水装置. vol.15. Fig.3)

 

図3は、超純水の水質がLC/MSへ与える影響を表したものです。UV照射を行った超純水と、行っていない超純水を移動相として用いて、4種の合成抗菌剤(各10 ppm)の分析を行い、結果を比較しました。

UV照射を行った超純水を用いた場合は、4種の化合物をきれいに検出することができました。しかし、UV照射を行っていない超純水を用いた場合には、ブランク(試料注入なし)の時点で検出されたゴーストピークが、分析対象となるピークに重なり、分析結果を妨げていることがわかります。

図3  LC/MSでの超純水中に含まれる有機物の影響

(出典元:下位典子, 熊谷浩樹, 石井直恵, Ichiro Kano. 分析用水の水質がLC、LC/MS分析に及ぼす影響とその検証. Application Notebook. 2002. vol.15. Fig.3

 

これらの結果から、UV照射によってTOC値を抑えた超純水が、HPLCやLC/MSなどの分析には最適であると考えられます。

医薬品に関する実験で求められる水質とは

HPLCやLC/MSなどを使った分析の中でも、特に正確さが求められるのが、医薬品に関する分析や試験です。

医薬品の性状や品質などを定めた規格基準書である『日本薬局方』には、「医薬品の試験に用いる水」が規定されています。ただし、精製方法や基準値などは一律に決められておらず、精製水やイオン交換水、超ろ過水など、該当する試験を行うのに適した水を用いること、とされています*4

これに対し、欧州薬局方では、液体クロマトグラフィー用の水質の基準として、比抵抗値が18 MΩ・cm以上でTOC値が5 ppb以下と明確な基準値が設けられています*5

日本薬局方ではこのような基準値が設けられていないため、分析の対象や実験の性質を見極めて、水質を分析者や研究者が慎重に選ぶ必要があります。

HPLCやLC/MSなどに適した超純水・純水製造装置とは

ご紹介した例からもわかるように、HPLCやLC/MSなどの分析や実験にはTOC値が低い超純水を選ぶことが大切です。さらに、UV照射によってTOC値を抑えられることが、おわかりいただけたと思います。TOC値が低い超純水を得るためには、「有機物酸化分解用UVランプ」が搭載された超純水装置を用いるとよいでしょう。

また、前処理として用いる純水装置の性能もTOC値に大きく関わります。例えば、蒸留装置やイオン交換ボンベを純水装置として用いた場合には、TOC値が低い超純水を精製することができません。

一方、RO膜と連続イオン交換によって精製されるElix(RO+EDI)水を一次純水として用いた場合には、TOC値が低い超純水を得ることができます。そのため、純水装置と超純水装置の組み合わせをあらかじめ考慮して、選定する必要があります*6,7

普段当たり前のように使用される水ですが、精製方法や処理によって水質は大きく異なります。実際に使用している水がどのような方法で精製され、どの程度の水質であるか、この機会に確認してみてはいかがでしょうか。

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参照元
1 JIS K 0557. 用水・排水の試験に用いる水. 1998.
2 JIS K 0124. 高速液体クロマトグラフィー通則. 2011.
3 JIS K 0136. 高速液体クロマトグラフィー質量分析通則. 2015.
4 厚生労働省. 第十七改正日本薬局方. 2016.
   参考情報 G8.水関連 医薬品等の試験に用いる水
5 European Pharmacopoeia 10th Edition. 2020, 10.2.
6 石井直恵, 加納一郎, 金沢旬宣. 超純水製造装置へ供給する一次純水の重要性. The R&D Notebook. vol.5.
7 石井 直恵. 超純水装置へ供給する一次純水の重要性-蒸留水とElix水との比較. The R&D Notebook. 2000, vol.6.