環境に配慮した水銀フリーの超純水製造装置

環境に配慮した水銀フリーの超純水製造装置

水銀規制の動きが地球規模で広がる理由

水銀は健康や環境に有害な影響を及ぼす危険な化学物質です。高濃度の水銀を摂取したり吸い込んだりすると、脳の損傷や腎機能障害が起こります。また、妊婦が摂取した場合は、胎児の神経系の発達が阻害され、記憶力や言語能力、運動能力に悪影響を及ぼすという報告もあります。

日本の四大公害病として知られる水俣病は、メチル水銀を含んだ工場排水によって引き起こされた大規模な有機水銀中毒です。ほかにも工業廃水によって新潟(1960年代)やカナダ(1970年代前後)で同様の水銀中毒症状が起こりました。さらに、イラク(1971~72年)では、小麦の殺菌剤にメチル水銀が含まれていたせいで中毒が発生し、多くの人が犠牲になりました。

このような健康被害や環境破壊を繰り返さないために、2013年10月に熊本市と水俣市で外交会議が開催されました。そこで採択された「水銀に関する水俣条約」には、2019年現在、世界92ヵ国が署名をしています。

この条約には、水銀を用いた製品の製造や輸出入の規制が定められています。具体的には、2017年末までに水銀封入量が5 mgを超える蛍光ランプの製造・輸出入を禁止。さらに、2020年までに、電池や一定含有量以上の高圧水銀ランプ、禁止製品リストに掲載された化粧品などについても同様の措置が取られます。

2016年には日本国内でも「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」が施行され、使用済み水銀製品を廃棄するためには、許可証や委託契約書、マニフェストなどの手続きが必要になりました。また、これまで家庭で使用していた古い蛍光灯や水銀を使った体温計、水銀電池なども家庭ゴミとして処分するのではなく、自治体によって回収されるようになりました。

水銀フリーの超純水製造装置を開発する

実はライフサイエンスの現場でも、水銀が登場します。例えば、超純水製造装置で、水質を高めるために使用される紫外線(UV)ランプに水銀が使われています。

現在、理化学機器は水銀規制の対象外です。超純水製造装置も製造停止が求められる「特定水銀使用製品」には含まれていません。しかし、メルクでは、時代のニーズに合わせた製品を開発することを常に心がけてきました。これからはサステナビリティを考えた技術の開発が不可欠です。超純水製造装置のトップメーカーとして、水銀を使わないUVランプの開発に取り組む必要がありました。

超純水の精製には2種類のUVランプが必要です。一つ目は有機物分解用、二つ目は殺菌用です。その両方に水銀が使われていましたが、メルクではそれぞれの代替方法を模索し、2017年には水銀フリーの有機物分解用UVランプを採用した「Milli-Q IQ® 7000」を発売。さらに、2018年には、水銀を使わない殺菌用UVランプを搭載した、超純水・純水製造装置「Milli-Q IQ 7003/05/10/15」を発売することで、完全水銀フリーを実現しました。

2種類のUVランプは、それぞれメカニズムが異なります。どのようにして水銀フリーを実現したのか、順に見ていきましょう。

有機物を分解する水銀フリーUVランプのメカニズム

従来の超純水製造装置では、低圧水銀灯と呼ばれる放電管のUVランプを使用していました。基本的な構造は蛍光灯と同じです。内部に水銀を封入して、放電によるエネルギーで水銀を励起し、基底状態に戻るときに発生するいくつかの紫外線を利用して有機物を分解します。

その後、メルクは水銀の代わりにキセノンを用いた水銀フリー紫外線(UV)ランプを開発しました。キセノンを放電エネルギーで励起させ、分子の二量体を経て基底状態に戻るときの紫外線を利用するのです。

従来の有機物酸化分解用の水銀ランプは、254 nmを中心に185 nmから可視光までのいくつかの線スペクトルで構成されていました。しかし、キセノンを用いた水銀フリーUVランプは、中心波長172 nmから少し幅をもった単色のスペクトルで構成されています。

このため、発光エネルギーのほとんどが短波長帯に集中し、水銀ランプより高い効率で有機結合を直接切断できます。また、172 nmという波長は、水銀ランプの185 nmよりもエネルギーが大きいため、分解能が高くなります。さらに、水中に発生したヒドロキシラジカルも有機物を分解します。

水銀フリー有機物分解用UVランプの特長はそれだけではありません。水銀ランプでは発光が最大効率に達するために数分間かかるのに対して、キセノンを用いたランプでは、瞬時に最大出力に達するというメリットがあります。

それぞれの特徴を図1にまとめてみました。

図1 低圧水銀ランプと水銀フリーランプの比較

殺菌用水銀フリーUVランプのメカニズム

前述したように、完全水銀フリーにするためには、有機物分解用のUVランプだけでなく殺菌用に用いられるUVランプの代替品も開発する必要がありました。

水銀を用いたUVランプが殺菌に用いられるのは、254 nmの波長のUVを効率よく発光するからです。この波長は細菌のDNAを破壊する260 nm前後の波長に近いため、菌を効果的に殺します。

これに代わるものとしてメルクが注目したのが、UV-Cと呼ばれる波長280 nm以下の深紫外領域用を含むUV LEDです。UV LEDは、様々な分野で製品化が目指されていましたが、光エネルギーへの変換効率の問題や、可視光 LEDよりも格段に大きい素子の発熱による短寿命が解決できず用途は限定的でした。最近、定期交換を前提とした十分な殺菌能力と寿命が得られるようになり、製造した純水の殺菌用途として純水製造装置に組み込むことに成功しました。

Milli-Q IQ 7003/05/10/15は、超純水製造装置としては世界で初めてUV LEDを搭載しました。図2に示す通りUV LEDの波長のピークは265 nmにあり、殺菌効率曲線に近くなっています。このことから従来装置に比べて、より効果的に殺菌できることがわかります。

図2 水銀フリー殺菌UVランプの波長特性と殺菌効率

以上、水銀規制の動きと、メルクの水銀フリー超純水装置について紹介しました。水銀使用製品は年々廃棄が難しくなっています。製品を導入するときにはぜひ、水銀フリー製品を検討してみてください。

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