TOC測定方法を理解し超純水を適切に管理しよう
その超純水は本当に超純水?
その名の通り不純物がほとんど含まれていない超純水。通常、水道水を50mプールに満たせばドラム缶2本分の不純物が含まれると言われますが、超純水の精製ではこれをわずか小さじ1杯分にまで取り除きます。ライフサイエンスの実験や分析では、水質が実験結果を左右することがあるため、不純物をしっかり管理して、その水質を保つことが重要です。
水の水質は、含まれている無機イオンや有機物の量で決まります。以前は、無機イオン量の指標である比抵抗(導電率)を用いて水質を管理していましたが、今ではTOC(Total Organic Carbon:全有機体炭素)を用いて有機不純物もあわせて管理しています。
現在、超純水装置で導入されているTOC測定方法は、ライン酸化UV利用方式TOCモニターと完全酸化分解方式TOC計の2種類があります。この2種類の方法について、詳しく見ていきましょう。
有機不純物はUVで分解して検出
ライン酸化UV利用方式TOCモニターも完全酸化分解方式TOC計もどちらも紫外線(UV)を利用してTOC値を測定します。
水中の有機物に185/254 nmのUVを照射すると有機物が酸化分解され、最終的には水と二酸化炭素に分解されます(CxHyOz→CO2 + H2O)。生成された二酸化炭素が超純水に溶解するとイオンを生じ(CO2 + H2O→H2CO3、H2CO3⇔HCO3-+H+)、導電率が変化します。TOCは、この導電率の変化から求められます。
どちらのTOC測定方法もこの原理を使っていますが、最大の違いはUVにより有機物を完全に分解するかどうかです。
ライン酸化UV利用方式TOCモニターでは、超純水を精製するためのUVランプを用いて、超純水がUVランプを通過する間に分解された有機物によって生じた導電率の変化をTOC値としています。
一方で、完全酸化分解方式TOC計では、超純水装置に内蔵されたTOC計にインラインでサンプリングして測定されます。有機物を水と二酸化炭素にまで完全に分解し、炭酸イオンによる導電率の変化がなくなる時点で酸化が終了したと判断します。
2種類のTOC測定方法はどっちがいいの?
それぞれの利点と欠点をみてみましょう。
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ライン酸化UV利用方式TOCモニター
精製=測定であるため、分析に特別な時間は必要ないのが利点です。欠点は、有機物を完全に酸化分解しないため、測定精度が低い点です。図1のt1で測定するため、過大評価や過小評価されることがあります。また、UVランプの劣化に伴い、精度が低下します。図1 有機物の酸化パターン
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完全酸化分解方式TOC計
有機物を完全に酸化するため(図1のt2)、サンプル水に含まれる有機物の種類によらず正確なTOC値を測定することができます。また、UVランプが劣化していたとしても、測定結果に影響しません。ただし、測定に数分程度時間がかかります。
ここまでで、ライン酸化UV利用方式TOCモニターがTOC値を“予測”しているのに対し、完全酸化分解方式TOC計ではTOC値を分析装置によって“測定”することにより、高い信頼性が確保できていることがわかると思います。
実際にRO水にTOCが100 ppbとなるようメタノールを添加した水を用いて、2つのTOC測定方法を比較してみると、図2のように、完全酸化分解方式TOC計では90 ppb程度、ライン酸化UV利用方式TOCモニターでは9~10 ppbと測定されました。ライン酸化UV利用方式TOCモニターでは、メタノールのような紫外線で酸化分解しにくい物質を含むときには、TOC測定結果が大きく異なることが確認されました。
図2 TOCが100 ppbとなるようメタノールを添加した水のTOC測定結果
さて、みなさんの実験室の超純水装置は、どちらのTOC測定方法を採用していますか?もしもMilli-Q ReferenceまたはMilli-Q Directをお使いでしたら、ご心配なく。ライン酸化UV利用方式を利用していますが、自動キャリブレーション機能により、さまざまな有機物や原水水質に補正対応でき、ライン酸化UV利用方式TOCモニターの問題点を解決していますので、安心して使ってくださいね。
Milli-Q IQ 7000/Milli-Q Integral/Milli-Q Advantageでは完全酸化分解方式TOC計が搭載されていますので、さらに確実なTOC値を測定・管理することができます。
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