安全な試薬容器の選び方
実験試薬の管理は万全ですか?
実験室では数々の化学物質を日常的に扱いますが、その中には人体に影響を及ぼしたり、環境を汚染したりする有害物質も多く含まれています。
試薬の安全な管理方法を知ることは、我が身の安全だけでなく実験室に出入りする全員の健康を守ることにつながります。ところが、Natureに掲載された、研究職場の安全性に関する国際的なアンケート調査(Nature (2012-01-03) | doi: 10.1038/493009a)によると、回答を寄せた約2400人のうち、約86%は自分の実験室が安全な職場であると考えているにもかかわらず、その半数近くが、動物に咬まれたり、化学物質を吸い込んだり、さまざまな事故の経験があると答えています。さらに、回答者の30%は、医療処置が必要な「大けが」を実験室で目撃したことがあると答えているのです。
このアンケート調査から、実験室には研究者たちが自覚していない危険がたくさん潜んでいることがわかります。
安全への高い意識は、研究者にとって欠かせない素養の一つ。事故を防ぐ対策だけでなく、事故が起きたときに被害を最小限にとどめられる知識も身につけておきましょう。
なかでも試薬容器の選択は、その基本とも言える項目です。この記事では、安全性という観点から試薬の容器の選び方について紹介します。
安全を目的として開発される試薬容器
試薬の容器には、いろいろな形状や大きさ、色、材質のものが用いられます。ガラス瓶やポリ瓶、アンプル瓶などさまざまな種類がありますが、メルクではより安全で使いやすい容器を日夜探求し、開発しています。
具体的には、製品の容器は使用者と環境の保護を目的として、以下のような観点から採用が検討されます。
- 安全な輸送が可能か
- 保管のための安全基準に準拠しているか
- 長期間の品質維持が可能か
- 包装材料と内容物との反応性の有無
- 高純度の試薬が汚染されないか
- 使用者(や環境)に優しいか
試薬の容器として最も多く採用されているものはガラスです。ガラスは酸を保管するのに最適な素材。ガラス瓶のメリットは、気密性が高く、化学的に安定で侵されにくいこと、試薬の長期間貯蔵が可能なことです。一方で、デメリットもあります。それは、重く割れやすいことです。どんなに注意深く取り扱っても、ガラスの破損事故はどのラボでも起こり得ます。
ガラス瓶を破損してしまった場合、周囲に対してどの程度有害性があるかは、内容物と破損状況によって異なります。こぼれた内容物やガラスの破片を除去している時が最も有害である場合が多く、けがや汚染、またはそれに伴う損害が発生する可能性があります。
このようなガラス容器のデメリットをカバーするために、メルクでは「Safebreakボトル」を開発しました。
破損事故の危険性を低減するのに役立つ「Safebreakボトル」
Safebreakボトルはガラス瓶をポリエチレン(PE)でコーティングした容器です(図1)。次の4つの点で優れています。
- 耐性…強い衝撃に耐えることができる。
- 安全性…破損した場合でも、酸とガラスの破片は飛び散らない。
- 保管性…頻繁に開閉しても、専用のスクリューキャップが密着性を維持。
- 環境性…従来のガラス瓶と同じようにリサイクル可能。
コーティングのおかげでボトルが落下して割れても、内容物やガラスの破片は外部に飛散しません。さらに、専用のスクリューキャップによってボトルとキャップの密着性が高まるため、液体や蒸気の漏洩も防ぐことができます。こうした特長から重厚感があり、保管性にも優れた容器となっています。
耐水性・耐薬品性に優れた「高密度ポリエチレン(HDPE)ボトル」
一方、メルクでは、ガラスのボトル以外に溶剤、酸、塩基の包装材に高密度ポリエチレン(HDPE)を採用したボトルも取り扱っています。
高密度ポリエチレン(HDPE)ボトル(図2)は、耐久性があり不活性で耐衝撃性の高い特殊加工された高品質のHDPE製です。次のような特長を持ちます。
- 耐性…耐水性、耐薬品性に優れており、耐熱性・耐寒性も良好。
- 安全性…ガラス瓶のような破損事故の危険性がない。
- 保管性…頻繁に開閉しても、専用のスクリューキャップが密着性を維持。
- 環境性…輸送時に保護剤が不要なため、ガラス瓶に比べると包装廃棄物の量が少ない。
ボトルの形状は非常にユニークで、注入性、操作性や持ちやすさ、高い圧力安定性を考慮してデザインされています。また、ある種の化学物質については、耐UV光の性能を付加するためにボトルを着色しています。
実験室にある試薬の容器を確認しよう
今一度、実験室内を見直してみてください。さまざまな試薬の容器があることに改めて気付くことでしょう。
ふだん何気なく使っている試薬ですが、その容器には、日々の実験を安全に行い、自然災害時の破損による危険を低減させるためのアイデアがたくさんつまっています。各容器と保管する化学物質の性質を知り、安全で安心な実験をぜひ心がけてください。
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