燃料電池の要!高分子電解質「ナフィオン」とは

燃料電池の要!高分子電解質「ナフィオン」とは

アポロ計画の燃料電池にも使われた「ナフィオン」

燃料電池の固体電解質および電解隔膜として根強いニーズを誇り、新たな用途を創出し続けるナフィオン(Nafion®)。ナフィオンはパーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーの商標名で、1960年代のアポロ計画の燃料電池でも使われていました。

水素を発電に利用する動き(燃料電池の開発)が宇宙開発において進められたのは、候補に挙がった原子力電池や一次電池、太陽電池はそれぞれ危険性、容量、体積に難があり、燃料電池のみがこの条件をクリアしていたためでした。

ナフィオンは複雑なナノ構造をもつため、様々なモデルが提唱されています。例えば、次のようなクラスター形成がそのひとつ。X線小角散乱などの結果から親水性のスルホン酸を持つパーフルオロアルキルエーテルグループからなる直径約4nmほどの逆ミセルをつないでいます。

このクラスター構造の特徴として、疎水性部分の占める割合が高いにもかかわらず、水分やその他のプロトン性物質を吸収する能力が高いことが挙げられます。これはスルホン酸基でコートされたこのネットワークによりカチオンや水の輸送が可能となるためです。

また、このほかに層状モデル、チャネルネットワークモデル、バンドルモデル、最近では逆ミセルシリンダーモデルもあります。

ナフィオンは多くの溶媒に不溶性で、強酸化剤や強塩基にたいして高い耐性を持つ、様々な利点をあわせもった材料なのです。

※参考文献:
National Science Review, Volume 4, Issue 6, 1 November 2017, Pages 917–933, Yuede Pan et el
Title: Functional membrane separators for next-generation high-energy rechargeable batteries
https://academic.oup.com/nsr/article/4/6/917/3101045

メルクのじっけんレシピ「ナフィオン実験FAQ」

メルクのテクニカルサービスでは、「じっけんレシピ」のページに、ナフィオンの実験にまつわるお役立ち問答集「ナフィオン実験FAQ」を、次のような内容で掲載しています。

  • ナフィオンの基本特性について
  • ナフィオン膜の主な用途と膜の選定について
  • ナフィオン分散液を使用した膜形成およびMEAの作製方法について

さらに、図や表を交えることで、読みやすいものに仕上げました。この記事では、新たに書き加えた項目の一部をQ&A形式で紹介します。

Q:ナフィオンのアルカリ耐性について教えてください。

A:ナフィオンはアルカリによって化学的な劣化を起こすことはなく、高いpHでの使用については特に問題ありません。ただし、アルカリは水分を奪う性質があり、ナフィオンは水分存在下で導電性を示す性質上、水分が奪われることによって導電性が低下する可能性があります。また、カセイソーダ水溶液(30-35 wt.%程度)中や製塩水中においては、膜中の水分が奪われることで、ナフィオン膜の寸法が若干小さくなる傾向にあります。

Q:ナフィオン膜 v.s. テフロン強化ナフィオン膜について

A:ナフィオンは食塩電解にも使用されます。食塩電解用イオン交換膜は、図1のように直接混合すれば爆発する恐れのある塩素ガスと水素ガスを分離する役目も担っており、長期間低下することのない機械的強度と、電解質の濃度や温度変化による膨潤収縮が小さいことが求められます。このためPTFE繊維で補強されたものが多く用いられます。

テフロン補強布自体は伝導性を持たないため、補強されていないナフィオンに比べると伝導性は低くなります。

Q:カチオン以外の透過性について

A:ナフィオン膜は、固体高分子型燃料電池(PEFC)や直接メタノール型燃料電池(DMFC)の固体電解質として使用されます。

PEFCの燃料極(アノード側)には水素、DMFCの燃料極にはメタノールが燃料として導入されます。

PEFC燃料極(アノード):H2 → 2H+ + 2e-
DMFC燃料極(アノード):CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e-
空気極(カソード):O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O

燃料極で発生したプロトン(H+)がナフィオン膜を透過した後にカソード側で酸素と結びついて水を生成し、この過程で発生した電子が電力として取り出されます。

ナフィオンは基本的にカチオンのみを選択的に透過する性質を持ちますが、カチオン以外のものを100%ブロックできるわけではありません。

例えば、H2やメタノールがプロトンに変換されることなく、カソード側へ移動することをクロスオーバー現象と言います。クロスオーバー現象は主に濃度差によって生じますが、燃料のロスによる性能低下をもたらすほか、水素の場合は、カソード側でH2+O2 → H2O2反応を促し、OHラジカルによる膜の劣化を引き起こします。

同様にアニオンに関しても100%ブロックされるわけではなく、濃度差による拡散や電場によって若干膜を透過する場合があります。

このような拡散・クロスオーバー現象は膜が厚くなるほど抑制され、またテフロン強化タイプでは通常のナフィオンに比べて起こりにくくなります。

Q:MEA(Membrane Electrode Assembly)作製方法を教えてください。

A:通常燃料電池の場合、ナフィオン膜上に電極(Pt/C)を形成して使用しますが、その際、図2のように別のフィルムにコーティングした後、ナフィオンに転写するのが一般的です。アイロンプリントのようなイメージで熱圧着によって貼り付けます。

参考文献: JARI Research Journal20141002, Yoshiyuki Hashimasa et el 「燃料電池発電性能に及ぼすMEA作製条件の影響」

昨今ではナフィオンの後発品として、より伝導性や耐熱性の見込まれるフッ素系プロトン交換膜も市場に多く出回るようになりました。しかし、初めてプロトン交換膜を使う研究者にとって、ナフィオンの長年の実績と論文数、知名度は、やはり魅力的ではないでしょうか。ナフィオンについて疑問に思うことがあれば、ぜひ、メルクのじっけんレシピを参考にしてみてください。