実験で用いる器具の洗浄と注意点
時間と労力を要する実験器具の洗浄
ビーカーやメスシリンダー、シャーレ、ピペット、薬さじ。さまざまな研究分野の実験において、毎日いろいろな実験器具を用いて実験を行います。研究者の中には、大量の実験器具の洗浄を憂鬱に感じる人もいるかもしれませんが、器具は使ったらすぐに洗浄するのが基本です。洗浄が不十分だと次の実験時に不正確な結果が出たり、失敗につながったりすることもあります。
洗浄の時間や労力を省くために、使い捨ての器具を用いる人も多いのではないでしょうか。しかし、器具の廃棄や実験手法を考えると、すべての器具を使い捨てにすることは困難です。
器具の形状や材質、実験に用いたサンプルや試薬などを考慮して、最適な洗浄方法を考える必要があります。この記事では、実験器具の洗浄方法や洗浄剤とその注意点について紹介します。
適切な洗浄剤を使えば効率的な洗浄が可能に
洗浄の基本は水洗と蒸留水による洗浄になります。しかし、水洗だけでは落ちない汚れもあります。その場合はブラシなどで汚れをそぎ落として洗浄しがちですが、ブラシの摩擦で器具が損傷してしまうことも少なくありません。
摩擦洗浄によって器具類の内面および外面に細かい傷を作ってしまうと、正確な測定や分析が困難になる場合も。手洗い洗浄ではどうしようもない器具類については、適切な洗浄剤(以下、洗剤)を使用し、効率的な洗浄を心がけましょう。
洗剤を用いて汚れを落とすということは、化学的反応によって汚れを落とすということ。適切な洗剤を選ぶためには、洗剤の成分・性質、汚れ成分に対する洗浄作用、汚れが付着している実験器具の材質の3点が重要になります。
まずアルカリ性、中性、酸性など洗剤の性質を見ていきましょう。
-
アルカリ性洗剤の特徴
アルカリ性洗剤は血液やタンパク、脂質などの有機系の汚れを落とすのに適しています。しかし、アルミニウムなどアルカリと反応性のある材質の器具洗浄の場合は注意が必要です。 -
中性洗剤の特徴
中性洗剤は穏やかな洗浄に適しており、汎用性に優れます。マグネシウムやカルシウムなどのミネラル分の分解にも適してるので、アルカリ性洗剤との使い分けで効率よく洗浄することができます。 -
酸性洗剤の特徴
酸性洗剤はひどい汚れの除去に適しています。一方、金属に対して腐食性があるので注意が必要です。
次に、洗剤に含まれる成分についてみていきましょう。洗剤の含有成分には様々ありますが、基本的には界面活性剤や洗浄助剤が含まれます。
-
界面活性剤の特徴と注意点
界面活性剤には「浸透」「乳化」「分散」という洗浄にとって大変重要な作用があります。非常に有用なものですが、界面活性剤の種類によって毒性や環境等への影響も異なってきますので、性質を理解して、正しい使用を心がけましょう。界面活性剤不含の洗剤も選択肢の一つです。 -
洗浄助剤の特徴と注意点
洗剤中の助剤には硬水軟化作用、分散作用、アルカリ緩衝作用、汚れの再付着防止作用などがあり、洗浄力を向上させる働きをします。しかし、助剤にリンなどが含まれる場合は環境に過剰に排出されることで富栄養化をもたらします。また、環境測定等で用いる器具の洗浄にリン含有のものを用いると、リン測定の際に正確な値を得られない恐れもあります。リンに代わる代替助剤もありますので、含有成分に注意を払って実験の妨げとならない成分を含んだ洗剤を選択しましょう。
忘れがちなのは洗剤と水の硬度との関係です。硬度が高い、つまり、水中に含まれるカルシウムやマグネシウムが多いと、陰イオン界面活性剤と結合して活性を失わせたり、汚れ同士が凝集して付着したり、十分な洗浄効果が得られない場合があります。
また、ラボ用洗剤には「浸け置き」用のものがあります。ラボ用備品は使ったらすぐに洗浄するのが基本ですが、激しい汚れのあるものなどは、浸け置き後に水洗することできっちり汚れを落とせますし、結果として時間とコストの節約にもなります。
ただし、洗剤の成分が器具に残らないように、水洗と蒸留水による洗浄をしっかりと行いましょう。
酵素を利用した器具洗浄剤
酵素を利用した器具の洗剤もあります。アルカリプロテアーゼ(プロテアーゼ:タンパク質分解酵素)を含んだ洗剤はアルカリ性でも酵素が活性を失わないため、生物由来のタンパク成分が乾燥した頑固な汚れにも適応します。他にもアルカリセルラーゼ(セルラーゼ:植物の繊維質であるセルロースを分解する酵素)などもあります。このように酵素を利用した洗剤は、酵素を活性化させるために加温して使用します。
環境やラボスタッフに優しいメルクのエキストラン®
メルクにはエキストラン®という洗浄剤シリーズがあります。手動洗浄、機械洗浄用途別や、アルカリ性、中性、酸性、酵素、含有成分についてもさまざまなラインナップがそろっています。エキストラン®は洗浄作業を効率よく行えることに加え、希釈して使用するため経済的です。
最後に、言わずもがなですが、洗浄の際にはマスクや手袋など適切な防護アイテムが必要不可欠です。器具がきれいになっても健康を害しては意味がありません。メルクのサイトにはアレルギーの心配がないニトリル手袋(パウダーフリー)も掲載していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
<安全性関連製品と安全性情報>
下記フォームでは、M-hub(エムハブ)に対してのご意見、今後読んでみたい記事等のご要望を受け付けています。
メルクの各種キャンペーン、製品サポート、ご注文等に関するお問い合わせは下記リンク先にてお願いします。
*入力必須