PFAS規制とPFAS分析の知っておきたいポイント

PFAS規制とPFAS分析の知っておきたいポイント

昨今PFASに対する関心が高まり、規制や今後の動向に注目が集まっています。
このような背景から、PFAS分析が行われている一方で、方法がわからないという声もよく聞かれます。また、何度か分析を試みたものの、期待していた回収率が得られないケースが見られ、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事ではPFASに関する基本情報から分析方法、そして注意すべきポイントを詳しく紹介します。

※本記事は2024年11月20日に作成しました。
法律や解釈については最新情報をご参照いただき、原文等でご確認をお願いいたします。

PFASとは?人体や環境への影響は

PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)は、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称で、1万種類以上の物質があるとされています。*1PFASは私たちの生活の身近なところにあり、以下のような製品に含まれていることがあります。*2,3

  • 泡消火器
  • フライパン
  • 半導体
  • 包装紙
  • 防水服

PFASの中には、水や油をはじくという性質や、熱や化学的安定性の高い物性を示すものがあります。中でもPFOS、PFOAはその物性を生かされ、幅広い用途で使用されてきました。しかし、PFAS(特にPFOA及びPFOS)は、人体に対する以下等の影響が懸念されています。*4,5

  • 複数のがん
  • 甲状腺機能
  • 出生時体重の変化
  • 高コレステロール

またPFASは「永遠の化学物質」と呼ばれており、自然には分解しにくいため環境汚染の原因となっています。中でも河川のPFOSとPFOA濃度が水質汚濁防止法の指針値(暫定50ng/L)を超えることもあり*6、問題視されています。

第一種特定化学物質指定のPFASの取り扱い方

1万種類以上あるPFASのうち、以下の3種類が化審法において第一種特定化学物質に指定されています。*7

  • PFOS:ペルフルオロオクタンスルホン酸又はその塩
  • PFOA:ペルフルオロオクタン酸又はその塩
  • PFHxS:ペルフルオロヘキサンスルホン酸又はこれらの塩

第一種特定化学物質に指定された化合物は、製造や輸入が原則禁止です。もし所有している場合は、以下のポイントを守って保管ください。

  • 周囲に囲いを設置
  • 見やすい箇所に縦横60cm以上の掲示板を設置し、保管場所である旨と種類、積み上げ高さ、連絡先を記載
  • 飛散、流出しないように措置を講じる
  • 害虫、害獣が生息しないようにする
  • 他の廃棄物が混入しないようにする

なお、所有している場合は速やかに廃棄するのが望ましいです。廃棄する際は、専門業者に委託して収集運搬および分解処理を行います。委託業者は、第一種特定化学物質指定のPFASの取り扱いに十分な知識が必要です。作業にあたっては、産業廃棄物管理表(マニフェスト)を交付し、廃棄物処理法ほか関係法令を十種のうえ、適正に処理する必要があります。分解処理方法については、現時点では焼却処理です。焼却施設は、分解効率が99.999%以上であることを事前に確認した施設のみです。また分解処理で生じる排ガス・廃水・残さ中の濃度が管理目標値を超えていないことも条件になります。*8

これらの化合物が含まれているかどうかの確認は、製品ラベルや取り扱い説明書内の安全データシート(SDS)をチェックしてみましょう。わからない場合は、製品のメーカーに問い合わせるのが確実です。メーカーへ問い合わせると、製品の回収に応じてくれることがあります。また適切な処理方法を提案してくれることもあります。

第一種特定化学物質指定外のPFASの取り扱い方

PFOS、PFOA、PFHxSを含まないPFASについては、現時点では規制がなく、通常の化学物質と同様の扱いです。しかし規制がないとはいえ、PFASは自然に分解しにくく、また人体への影響も気になるところです。そのため、廃棄する際は自治体の分別方法に従いましょう。廃棄量が多い場合は、PFOSなどの分解処理実績のある施設に廃棄依頼するのが確実です。

PFAS規制を取り巻く世界と日本の状況

世界と日本のPFAS規制の状況を整理し、PFASに関心が高まっている理由について紹介します。

世界と日本のPFAS規制の現状

PFASに関する規制は、国連のストックホルム条約(POPs条約)にて、PFOS、PFOAおよびPFHxSの制限が提案され、日本でも規制対象になりました。さらに各国において、PFASの規制は加速している状況です。アメリカ、ヨーロッパ、日本の飲料水および水道水におけるPFAS規制について、現状を表にまとめました。

国名 機関名 対象物質 規制条件や目標値
アメリカ USEPA(米国環境保護庁) PFOA, PFOS,
PFHxS, PFNA,
HFPO-DA (commonly known as GenX Chemicals),
Mixtures containing two or more of PFHxS, PFNA, HFPO-DA, and PFBS
PFOA, PFOS:4.0 ppt *9
PFHxS, PFNA,
HFPO-DA:10ppt *9
Mixtures containing two or more of PFHxS, PFNA, HFPO-DA, and PFBS:
1 (unitless)
Hazard Index *9
ヨーロッパ EC(欧州委員会) 全PFASおよび特定20物質 全PFAS:500 ng/L
特定20物質合計:100 ng/L *10
WHO(世界保健機関) PFOS, PFOA,総PFAS PFOS, PFOA : 100ng/Lを提案*11
総PFASとして500 ng/Lを提案 *10,11
日本 厚生労働省 PFOS, PFOA PFOSとPFOA合算で50 ng/L以下(暫定目標値)*12

PFASの関心が高くなっている理由

令和2年度より、公共用水等におけるPFOSとPFOAは要監視項目として追加されました。*13
調査において水質汚濁防止法の指針値(暫定50 ng/L)を超える地点が出てきており*6、ニュースで目にすることも増えました。

国も第一種特定化学物質指定のPFASについて、リスク評価を実施しています。*14,15,16 内閣府の食品安全委員会は、PFOS及びPFOAによる出生時の体重低下やワクチン接種後の抗体低下の関連は「否定できない」、と発表し*17、不安が広がっています。このように、飲料水の安全性と健康への不安から、国内ではPFASの関心が高まっているのです。

日本におけるPFASの規制

上記表において、各国の条件を比較すると日本の規制化合物は少なく、目標値は緩いことがわかります。日本では水道水、公共用水域等および食品にて、PFOSとPFOAの限度が設定されており、数値は以下のとおりです。

  • 水道水:PFOSとPFOA合算で暫定目標値50 ng/L*12
  • 公共用水域等: PFOS 及び PFOA の合計値 指針値(暫定) 50 ng/L*13
  • 食品:耐容一日摂取量(TDI)PFOSとPFOA各20 ng/kg体重/日を食品安全委員会が提案*17

2024年2月に第一種特定化学物質に指定されたPFHxS又はこれらの塩は、健康への影響を検証されていますが、十分な知見は得られておらず、指標値は設定されていません。*17

PFASの分析方法

水中のPFASの分析は、前処理として固相抽出カラムを使って水中から抽出した試料を、LC-MS/MS法で分析する方法が一般的ですが、それ以外にも複数の手法があります。

分析法は、該当法令、試料、対象物質、定量下限等を考慮し、適切なものを選択するようにしましょう。 一例として、ISO25101やJIS K 0450-70-10で示された方法がありますが、PFOSとPFOAを含む多数の化合物を同時測定できます。測定方法の概要をJIS K 0450-70-10:2011 *18を参照して紹介します。

試料調製

試料溶液の調製方法は以下の手順です。*18

①河川などから試料を採取し、必要に応じて懸濁物を取り除くためフィルターでろ過。
②試料に内標準物質を添加、固相カラムに通水し、対象物質を固相カラムに吸着させる。
③減圧や加圧等により、固相カラム中の水分を除去する。
④溶出溶媒を流し、対象物質を溶出させる。
⑤溶出液に窒素ガスを吹き付け、濃縮させたのち一定量にする。

図1.PFAS分析における試料調製の概要*19

図2.PFAS分析のためのLC-MS/MSの概要*19

測定は、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC-MS/MS)を用いて、検量線法によって定量します。
PFAS分析に適したカラム例を以下に記載します。*19

  • 完全多孔性シリカ粒子 (FPP) を用いた C18 カラム(AscentisTMC18Purospher®
  • マトリックスを含むサンプルに適したモノリスカラム(Chromolith®

HPLC システムや分析に使用する材料からのPFAS混入が懸念される場合には、ディレイカラムを使用することが有効です。*19
移動相は、メタノールやアセトニトリルのような有機溶媒および酢酸アンモニウム溶液がよく使われています。MS/MSの条件については、イオン化方式は負のESI、検出方法は選択反応検出法(SRM)です。*18

PFAS分析で注意したいポイント

試料に含まれるPFASは微量かつ操作が煩雑であるため、調製時のロスやコンタミが発生しやくなっています。よくある失敗とその対策を紹介しますので、初めてPFAS分析を行う方や、回収率に悩んでいる方はぜひご確認ください。

前処理でのPFASロスを避けて

試料の懸濁物除去のためのろ過工程において、PFASロスが生じる場合があります。PFASはフィルター吸着しやすく、回収率の低下原因になり得ます。とくにC8以上の長鎖PFASは疎水性が強く、フィルター素材に吸着しやすい性質を有しているため、低吸着フィルターを選択ください。もしくはフィルター使用後に溶媒で洗浄し、吸着したPFASを回収するのも有用な手段です。

コンタミに気をつけよう

微量のPFAS分析において、コンタミは命取りになります。PFASの混入元は、プラスチック、テフロン、ナイロンなどがあります。また固相抽出は手順が多く煩雑なため、試料調製におけるコンタミにはとくに注意が必要です。具体的なコンタミの原因を、以下の表に挙げました。

操作 コンタミの原因になるもの
試料採取 ・瓶の蓋や採取器具
試料調整 ・チップやピペット
・前処理用フィルター
・試料保管容器
・固相抽出用の器具
試料測定 ・移動相由来(溶媒・水・フィルター)
・サンプルバイアルおよびキャップ
・システム由来(ライン・チューブ・バルブシール・デガッサー・移動相フィルター)
その他 ・実験用手袋
・標準溶液からの汚染

PFASフリーの試験用品を選ぼう

PFASのコンタミを避けるには、PFASフリーの試験用品がおすすめです。水や溶媒、フィルターについては、PFASフリーのものやPFAS含有量が低いものがあります。微量なPFAS分析を成功させるには、これらの試験用品が欠かせません。メルクでは、PFAS分析に特化した製品も展開していますので、検討してみてください。

まとめ:PFAS分析に関するお役立ち資料

PFASは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称で、1万種類以上の物質があるとされています。 現在日本において規制されている物質は、PFOS・PFOA・PFHxSの3種類です。今後は海外の動向も含めて規制対象が増加する可能性もありますが、早急な変更はないと予想しています。

しかしながら、規制に関する最新情報や方向性を把握しておくとよいでしょう。

PFAS分析に際しては、コンタミや吸着によるロスに注意しましょう。
メルクでは、PFAS分析に関する標準品、カラム、フィルター、前処理、超純水製造装置についてワンストップサービスを展開しています。5分で33種類のPFASが分析できるメソッドも公開していますので、カタログをチェックしてみてください。

カタログダウンロード

※法令、基準値など最新の情報は記事作成時点での情報です。最新情報は各管理当局の情報をご覧ください。

*1)有機フッ素化合物(PFAS)について(環境省)
*2)クローズアップ現代 PFAS取材班."「PFAS」とは? 世界の規制状況・健康への影響は?"
*3)PFASに関する情報(東京都保健医療局)
*4) the National Academy of Sciences"Guidance on PFAS Exposure, Testing, and Clinical Follow-Up."National Library of Medicine
*5) PFOS、PFOAに関するQ&A集 2024年8月時点(環境省)
*6)環境省水・大気環境局.PFASに対する総合戦略検討専門家会議(第1回)PFAS,PFOAの国内の検出状況資料4-1.令和5年1月20日(環境省)
*7)経済産業省"第一種特定化学物質"
*8)環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課.PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する 技術的留意事項.p.11
*9)EPA."Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) Final PFAS National Primary Drinking Water Regulation".EPA United States Environmental Protection Agency.
*10)10PFOS、PFOA以外のPFASに関わる国際動向 資料3-2 (環境省)
*11)PFOS、PFOA に関する国内外の動向について 資料1 (環境省)
*12)厚生労働省医薬・生活衛生局水道課長.「水質基準に関する省令の一部改正等について」の留意事項について.令和2年3月30日.薬生水発0330第1号.厚生労働省
*13)水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について
*14)独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター.ペルフルオロ(オクタン-1-スルホン酸)及びその塩のリスク評価.2009-07.独立行政法人 製品評価技術基盤機構
*15)独立行政法人製品評価技術基盤機構/経済産業省製造産業局化学物質管理課/厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課化学物質安全対策室.製品含有化学物質のリスク評価 ペルフルオロオクタン酸.令和元年9月,p1-p81.製品評価技術基盤機構
*16)独立行政法人製品評価技術基盤機構/経済産業省製造産業局化学物質管理課/厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課化学物質安全対策室.製品含有化学物質のリスク評価ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)及びその塩.令和5年1月.製品評価技術基盤機構
*17)食品安全委員会.評価書有機フッ素化合物(PFAS).令和6年(2024年)6月食品安全委員会
*18)工業用水・工場排水中のペルフルオロオクタンスルホン酸及び ペルフルオロオクタン酸試験方法(JIS K 0450-70-10:2011).
*19)MERCK.PFAS分析の製品ガイド(MERCK)

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