<研究者インタビュー>山口浩明―薬物動態を臨床の現場から研究する意味

<研究者インタビュー>山口浩明―薬物動態を臨床の現場から研究する意味

様々なラボを渡り歩いて見つけた使命とは

東北大学病院副薬剤部長の山口浩明先生は、薬物動態のプロフェッショナルとして研究と臨床の両方をフィールドに活動されています。もともと有機化学を学びたかった山口先生が、薬剤師となり臨床現場で研究を行うようになったのはなぜでしょうか。そのユニークな経歴にスポットを当ててインタビューしました。

―さっそくですが、薬学部を選ばれたきっかけを教えてください。

薬学部といえば、「薬剤師になりたい」という動機が一般的かもしれません。しかし、もともと興味があったのは有機化学なんです。実は、工学部の工業化学系を学びたいと考えていました。しかし、センター試験で思うような結果が出ず、狙っていた大学の工学部はあきらめました(笑)。東北大学の薬学部を選んだのはたまたまで、東北出身ということもあり、薬学部なら有機化学もできるだろうと考えたのです。

有機化学を専門にするつもりで薬学部に入りましたが、配属されたのは分析分野に強くプロスタグランジンの代謝物の微量定量などを行う研究室でした。そこで私が取り組んだのは、GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を使って、プロスタサイクリンの代謝産物である6,15-ジケト-13,14-ジヒドロプロスタグランジンF1αを微量定量する研究です。ここでの研究は結果的に順調に進み、成果を論文にすることもできました。

―では、そのときから分析を専門に研究するようになったのでしょうか。

それが違うのです(笑)。薬物動態をやりたくて、大学院から京都大学の研究室に進学しました。そこで修士課程を終えたら地元に戻って薬剤師として働こうと思っていたのですが、研究をもっと続けたくなり博士課程に進学しました。

このときは「抗菌薬が消化管から排泄される際、どのようなトランスポーターが関わっているか」を調べていました。実はこれがうまくいき、学位論文の内容が早く仕上がったのです。この時点で博士課程修了まで2年半以上残っていました。そこである分子のクローニングをすることにしたのですが、頑張ったものの今度は全く結果が出ず、もやもやした気持ちでドクター生活を終えました。

―その後、オランダにポスドクとして留学されています。なぜオランダだったのでしょうか。

どうしてもやりたい研究があって、その研究を専門に行っているラボに応募しました。他の選択肢は頭になかったので、受け入れてもらうことが決まって幸運でした。

そこは、5〜6か国からポスドクが集まるインターナショナルな研究室で、公用語は英語です。慣れるまでは大変な面もありましたが、研究だけやればいいという恵まれた環境。ボスは「結果を出すことが重要」という考え方でした。結果を出せるのなら毎日ラボに来なくていいんです。オランダ時代は朝もそれほど早くなく、夜も6時くらいに帰っていました。週末もあまりラボには行ってません。ただし、結果を出さなかったときはミーティングで随分としぼられました(笑)。「失敗しました」と報告しても、「もっとやれるはずだ」と言って許してくれないんです。「結論を出すため、できるだけ近道となる方法をとる」というボスの合理的なスタイルからは多くを学ぶことができました。

オランダから帰国後は、4年間、東北大の薬剤部で研究をしました。そのときの教授が分析の専門家だったので、薬物動態をやりながら、分析の技術が自分の土台になっていきました。

臨床の現場で研究をする人を増やしたい

―その後、東北大から金沢大学付属病院に移られたのはなぜでしょうか?

現場で薬剤師をやろうと考えたのです。金沢大病院では、調剤や病院内で使う薬剤の調製などを行いました。今振り返っても、現場を経験したことは本当に良かったと思います。現場が何をやっているのか、体感として理解することができました。

そのときは、そのまま薬剤師になろうと考えていたのですが、ある先生からお声がけいただき、今度は准教授として北海道大学に移りました。「現場のことがわかる人に来てほしい」と考えられていたようで、金沢での経験を生かすことができました。

―そして、現在の東北大に戻られたわけですね。いろいろな経緯がありながらも臨床応用を常に意識して研究されていますよね。

そこにはこだわりをもっています。臨床の近くで基礎研究を行うことはとても大切です。薬剤師として働く前にもこの東北大病院の薬剤部で研究をしていましたが、ここには基礎研究の人たちだけでなく薬剤師として働きながら研究している人も多いのです。その環境のおかげで、現場を肌で感じることの大切さを学びました。

薬剤師の役割も昔と今ではずいぶん変わってきています。昔は調剤が主な仕事でしたが、今は調剤だけでなく、患者さんの近くでの病棟活動がメインとなっています。分析機器を使って治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring)をしたり、処方前にその薬の量や飲み合わせがおかしくないか確認したりするなど、薬の専門家として活躍の場が広がっています。

だからこそ、研究もできる人をもっと増やしていかなくてはいけないと考えています。薬剤師は業務が多く、本腰を入れて「研究しよう」と言える環境に身を置くことは簡単ではないかもしれません。しかし、可能な限り医師と対等に議論を重ね、研究の種を見つけることも大切です。そうした人が増え、研究の成果として還元できれば医療の発展に大きく寄与するのではないかと思います。

<研究者のおすすめ本コーナー> 山口浩明 編
子供の頃、うちには図鑑が揃っていたのですが、特に魚図鑑に興味がありました。実家が海沿いにあり、祖父が漁師であったことも影響していると思います。魚の種類を覚えるのはもちろんですが、目にしたことがない魚のページを眺めているのが楽しかったですね。「マダイ」と「チダイ」の違いや「ブリ」と「ヒラマサ」の違いなども学ぶことができました。図鑑から研究者に必要な好奇心が培われたのかもしれません(笑)

プロフィール
山口 浩明(やまぐち ひろあき)
山形大学大学院医学系研究科 教授 / 山形大学医学部附属病院 薬剤部長
東北大学病院 准教授 副薬剤部長(インタビュー時)
1999年に東北大学薬学部薬学科卒業後、京都大学大学院薬学研究科へ進学し、2004年3月に博士(薬学)取得。2004年4月よりオランダ癌研究所にポスドクとして留学。2005年4月に東北大学病院薬剤部助手に就任した後、2007年に助教。2009年4月からは金沢大学附属病院で薬剤師として働き、2010年1月から2014年3月まで北海道大学大学院薬学研究院准教授を務める。2014年4月から2019年3月まで東北大学病院 准教授 副薬剤部長(インタビュー時)。2019年4月より現職。