食品に含まれるPFASのリスクと対策──正確な測定を実現する最新アプローチ

食品に含まれるPFASのリスクと対策──正確な測定を実現する最新アプローチ

環境中に蓄積したPFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)は、食物連鎖を通じて魚介類や肉、卵などの食品に取り込まれ、人間の健康へ影響を及ぼすことが懸念されています。免疫系や肝機能、甲状腺、さらには発達や生殖への影響が報告されており、国際的にも規制強化の動きが加速しています。

とくに食品は、私たちが日常的にPFASへばく露する主要な経路とされていることから、食品メーカーや化学メーカーには、原料や製造工程におけるPFASの混入リスクを管理し、適切にモニタリングすることが求められています。

本記事では、食品中のPFAS問題が注目される背景や各国規制の最新動向、食品分析における課題と、それを解決するメルクのソリューションについて解説します。

食品中に含まれるPFASの問題とは

食品中に含まれるPFASが、動物や人体に与える影響が問題となっています。PFASは炭素とフッ素の強固な結合を持つ人工の有機化学物質群で、撥水・撥油性、耐熱性、化学安定性に優れています。*1生活環境によって異なりますが、食事による摂取がPFASへのばく露に最も大きく寄与していることが明らかになっているのです。*2

PFASのうちPFOSとPFOAの摂取源としては魚介類、次いで卵・卵製品、肉・肉製品、果物・果物製品が多いとされています。*3河川や海洋、土壌に排出されたPFASは生態系に取り込まれ、魚や動物の体内に蓄積していきます。さらに、汚染された水や飼料、肥料を通じても動物に移行してしまいます。

PFASは、生物蓄積性(バイオアキュムレーション)があり、食物連鎖を通じて生物濃縮が起こります。健康への影響としては、以下の指摘があります。*4

  • 免疫系への影響
  • 甲状腺機能の異常
  • 肝機能障害
  • コレステロール値の上昇
  • 発達・生殖への影響

このように、食品を通じて人の健康に影響が及ぶ可能性が指摘されていることから、食品メーカーや化学メーカーには、安全管理の一環として自主的なモニタリングが求められています。

①食品メーカー

消費者の健康に直結する食品だからこそ、品質管理部門には、原材料や製造工程を通じたPFAS(有機フッ素化合物)混入のリスクを的確に把握・管理する責任があります。原料農産物や畜産品、水、包装材など、あらゆる工程においてPFAS汚染の可能性があります。食品企業による自主的な原材料モニタリングや製品検査の強化が、ブランド価値と消費者の安全を守るうえで不可欠です。

②化学メーカー

PFASを含む製品や処理工程を有する化学メーカーでは、製造・廃棄工程から排出される排水・排気が、周辺環境(とくに農地・水源・漁場)へ拡散し、結果として食品原料への蓄積・移行を引き起こすリスクがあります。実際に、米国や欧州では化学工場の排水が農地や河川を汚染し、そこで栽培された作物や捕獲された魚介類から高濃度のPFASが検出され、地域住民の健康リスクが懸念される事態に発展しました。*5こうした事例を受け、化学メーカーには工場排水や周辺環境(土壌・地下水・水域)に対する定期的なモニタリングと、リスク評価の実施が強く求められます。

食品におけるPFAS規制の最新動向

日本においては、PFOS・PFOA・PFHxSが「第一種特定化学物質」に指定され、製造・輸入が原則禁止されています。*62025年8月現在、水道水については基準値(PFOSおよびPFOAの合算値:50ng/L以下))が設定されています。さらに2026年4月からは、公共用水域や地下水も要監視項目に加えられ、PFOSとPFOAの合算値について50 ng/Lの指針値が定められる予定です。*7

飲料水(水道水)以外については、現状濃度規制はなく*8、ばれいしょ、キャベツ、トマト、コメ、牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳、鶏卵、マイワシ、カツオ、マダラ、アサリ、アユについて調査が進められています(PFASのうち、PFOS、PFOA、PFNA、PFHxSの4種類)。*9

2024年3月には、食品安全委員会が初めて食品におけるPFASのTDI草案(TDI:人が一生涯にわたり摂取しても健康に悪影響がないと推定される1日あたりの摂取量のこと)を公表しました(例:PFOA、PFOSともに20 ng/kg体重/日)。*10今後は、長鎖のPFASも対象になる見込みです。*11このように、規制は日々見直され、より厳しくなっています。

EUでは、魚の種類ごと・乳幼児向けの食品かどうかで規制濃度が変わります。さらに、肉も部位ごとに規制濃度が分けられています。*12米国やWHOは飲料水については規制を設けていますが、食品中についてはまだ決められていません。*13 14

国など 対象 内容
日本(厚労省) 食品 調査中
EU(欧州委員会)*12 卵、魚、甲殻類、肉など 卵:PFOS 1.0 PFOA 0.3 PFNA 0.7 PFHxS 0.3 4種の合計 1.7(μg/kg wet weight)など
米国 食品 規制なし
WHO 食品 規制なし

食品中のPFAS測定における難しさと注意点

食品中のPFASを測定する際には、以下のような特有の難しさや注意点があります。

食品マトリクスの複雑性(妨害物質が多い)

食品は、脂質・タンパク質・糖・色素などが混在する複雑なマトリクスをしています。これらがPFASのイオン化抑制やピーク干渉を引き起こし、誤検出・過小検出の原因になる場合があります。*15とくに魚・肉・卵など脂質が多い試料では、前処理(クリーンアップ)が不可欠です。

部位によってPFASの分布が異なる

PFASは、腎臓や肝臓などの臓器に高く分布するため、検体の選定が必要です。同じ魚種でも生息地や餌(海水・淡水・人工飼料)により、同じ哺乳類でも飼育水・飼料・環境によりPFAS濃度が大きく変動することが知られています。*16肉類は血液を多く含み、かつタンパク質濃度が高いため、LC-MS/MSでのイオン化が阻害されやすい傾向にあります。

分析対象が多様なうえ、低濃度での検出が必要

米国のメイン州では牛乳中のPFAS規制値がng/Lオーダーとされているように、測定対象の濃度は非常に低いです。さらに、PFASは1万種類以上あり、鎖長によって挙動が変わるため調査のしやすいものと、しにくいものがあります。*17そのため、正確な測定のためには専用の分析機器や高い技術力が求められます。

分析機器や利用器具・材料からの汚染

PFASは実験室環境に広く存在します。例えば、プラスチック製品や試薬、溶媒、実験機器などからPFASが浸出し、分析結果に干渉する可能性があるのです。*18また、食肉の加工・包装過程で、PFASを含む食品の包み紙から移行するケースがあります。*19結果として、原料由来か加工時混入かの区別が困難な場合があり、PFAS測定を複雑にしています。

メルクのカラム・メンブレンを使用して、サーモン中の16種類のPFASを一括・高感度で分析

メルクは、QuEChERS(FDA メソッド C-010.02 準拠)を用いたサーモン中16種類の PFASのLC-MS/MS分析を行い、高感度測定を実現しました。この手法は、米国食品医薬品局(FDA)のガイダンスによるもので、QuEChERS法を改変した抽出・クリーンアップ工程(分散型固相抽出 (dSPE) を使用)に加え、得られたQuEChERS抽出液に対して弱アニオン交換(WAX)SPE カートリッジを用いた追加クリーンアップを行った後、LC-MS/MS 分析を行う手法です。

サーモンサンプルを測定した結果、0.01 ng/mLが下限定量値、回収率はすべて40~120%の許容範囲内に収まり、%RSDは22%未満でした。

正確な分析のためには、PFASに汚染されていない溶媒、試薬、器具を選ぶことが不可欠であり、メルクの商品はそれに該当します。この分析における各工程で使用したメルク製品(一部)は以下の通りです。

・HPLC分析
Purospher® STAR RP-18 endcapped Hibar® HR, 2 µm, 15 cm × 2.1 mm 1.50649
Purospher® STAR RP-18 endcapped Hibar® RT, 3 µm, 5 cm × 4.0 mm 1.50428

・サンプル調整
Supel QuE PSA/ENVI-Carb Tube 3, 15 mL, 50 本入り 55479-U
Supel QuE Non-Buffered Tube 2, 50 本入り 55295-U
Supelclean ENVI-WAX SPE Tube, 500 mg, 6 mL, 30 本入り 54057-U
Visiprep SPE マニホールド(12 ポート、標準モデル) 57030-U
Millex® シリンジフィルター(ナイロン、非滅菌、0.20 µm、直径 13 mm) SLGNX13

【無料】食品中の PFAS分析環境の構築に役立つ資料をダウンロード

本記事では、食品中のPFASの問題点、最新の規制の動向、分析上の課題、そしてメルクのソリューションを解説しました。食品中のPFASは人の健康に影響を及ぼす可能性があるため、正確かつ厳密な分析が求められます。

メルクでは、サーモンの分析事例(QuEChERS法を用い、 LC-MS/MS で測定する方法)について、実験条件、検証データ、使用機器リストなどをまとめたアプリケーションノートをご用意しています。興味のある方は、ぜひ下記からダウンロードしてご活用ください。

資料ダウンロード

*1 よくある質問 Q1 PFASとは何か(環境省)
*2 よくある質問 Q7 PFASはどのような経路で体内に取り込まれるのか(環境省)
*3 Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food(EFSA Panel on Contaminants in the Food Chain)
*4 PFAS汚染-国は健康被害を未然に防ぐ早急な対応を(愛知県保険医協会)
*5 3M knew firefighting foams containing PFAS were toxic, documents show
*6 PFOS、PFOA に関するQ&A集(環境省)
*7 「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」及び「水道法施行規則の一部を改正する省令」の公布等について(環境省)
*8 ミネラルウォーター類中のPFOS及びPFOAの 規格基準の設定について(消費者庁)
*9 食品中のPFASに関する情報(農林水産省)
*10 「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書に関するQ&A(食品安全委員会)
*11 高PFAS含有排水の処理・分解・無害化・計測技術の開発
*12 Commission Regulation (EU) 2022/2388 of 7 December 2022 amending Regulation (EC) No 1881/2006 as regards maximum levels of perfluoroalkyl substances in certain foodstuffs (Text with EEA relevance)
*13 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に(日本経済新聞)
*14 PFOS、PFOA に関する国内外の動向について
*15 Unwanted Ingredients—Highly Specific and Sensitive Method for the Extraction and Quantification of PFAS in Everyday Foods
*16 PFASガイドブック(社会医療法人社団・健生会PFAS専門委員会)
*17 有機フッ素化合物(PFAS)について(環境省)
*18 有機フッ素化合物の分析で気をつけること(日本分析化学会)
*19 Fluorinated Compounds in U.S. Fast Food Packaging

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