牛乳に含まれるPFAS、どう測定する?分析を妨げる要因の除去から、信頼性の高い測定法まで

牛乳に含まれるPFAS、どう測定する?分析を妨げる要因の除去から、信頼性の高い測定法まで

環境中に蓄積したPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)は、家畜や人間の健康に悪影響を及ぼすことが知られています。特に牛乳には、乳牛が口にした飼料や水に含まれるPFASが移行している可能性があり、その牛乳を飲んだ人間への健康被害も懸念されています。そのため、食品・飲料メーカーや化学メーカーでは、製品や原料におけるPFAS濃度の分析が求められているのです。

本記事では、牛乳におけるPFAS問題に注目すべき理由、規制の最新動向、分析の妨げとなる課題、そしてメルクによるソリューションを解説します。

 

「牛乳におけるPFAS問題」に注目すべき理由とは

もともとPFASの問題は、1998年米国での牛の大量死をきっかけに明らかになりました。その後、化学メーカーが長年使用していたPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が、住民の飲料水に長期的に混入していたことがわかり、人体への影響も発覚していきました。*1

PFASは1万種類以上ありますが、種類によっては生物蓄積性(バイオアキュムレーション)があるため、一度生物の体内に取り込まれると排出に時間を要します。*2 そのため、血液や肝臓に多く存在してしまい、以下のような健康被害を起こす可能性があります。*3

  • コレステロール値への影響
  • 状腺機能の変化
  • 出生体重の低下
  • 肝機能障害
  • 妊娠高血圧症候群
  • 腎臓がん、精巣がんなど一部のがんのリスク増加

PFASを含む飼料や水を摂取した乳牛から、PFASが乳製品に移行する可能性があります。そして、高濃度にPFASが蓄積した乳製品を口にすることで、人の健康被害が出ることも懸念されているのです。*4

近年では、日本においても、PFASが人や動物に与える影響について問題となっています。乳製品におけるPFAS濃度が問題視されるようになり、各メーカーの乳製品における自主的かつ定期的なPFAS濃度の測定が求められています。

食品・飲料メーカーの課題

食品・飲料メーカーにおいては、製品である牛乳・飲料そのものに含まれるPFASの有無が人の健康に直結します。牛の飼育に使用される水(飲水)、飼料、牧草、放牧地の土壌などがPFASの汚染源として考えられます。そのため、製品である牛乳や飲料はもちろんのこと、原料におけるPFAS濃度を自主的にモニタリングする必要があるのです。

欧米では、乳牛に与えた水や飼料由来のPFASが牛乳から高濃度で検出される事例が起きており、流通停止や廃業に追い込まれたケースも報告されています。

化学メーカーの課題

化学メーカーがPFASを含む製品を製造・処理する過程で排出される排水・排気が、近隣の牧草地や地下水に蓄積・流出することで、飼料植物や家畜、最終的に牛乳へのPFAS移行を引き起こす可能性があります。

実際、米国や欧州では、近隣の化学工場の排水が畜産地の土壌や水系を汚染し、牛乳や牛肉に高濃度PFASが検出された事例が報告されています。このような事態を避けるため、化学メーカーは工場排水・周辺土壌・地下水に対する自主的なモニタリングとリスク評価の徹底が求められています。

牛乳におけるPFAS規制の最新動向

日本では、飲料水(水道水)においてはPFASに関する規制が作られていますが*5、2025年6月時点で牛乳を含む農畜水産物については調査段階です。具体的には、PFASのうち、PFOS、PFOA、PFNA、PFHxSの4種類について含有実態調査が行われています。*6 日本の食品基準は米国の基準に依存しているため、FDA(米国食品医薬品局)でのPFAS基準を参考に今後決められるものとして注目されています。

多くの国において、2025年6月時点ではPFASに関する規制はなく、調査に動いている段階です。米国のメイン州に関しては、2016年酪農場で生産された牛乳から高濃度のPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)が検出されたことから、独自に規制を設けています。*7

各国における牛乳中のPFAS規制の現状は以下のとおりです(2025年6月時点)。

国など 対象 内容
日本(厚労省) 食品(牛乳を含む) 調査中*6
EU(欧州委員会) 牛乳 規制なし
米国(メイン州:Maine Department of Agriculture, Conservation, and Forestry) 牛乳 PFOS:210 ng/L *7
WHO 牛乳 規制なし

牛乳中のPFAS測定を妨げる4つの課題

牛乳中のPFAS測定は、以下の課題により困難とされています。

タンパク質・脂質などマトリックスの存在

PFDoS・PFTrDSなどの長鎖スルホン酸(C11〜C13)を持つPFASの回収率が著しく低くなったという報告があります。*8 これは、牛乳中の長鎖スルホン酸が脂質に結合するために起こるものです。さらに、牛乳中のタンパク質との結合によって、回収率が下がる可能性があることも報告されています。*9

MS/MS遷移を持つ共存物質の存在

TUDCA(タウロウルソデオキシコール酸)、TCDCA(タウロケノデオキシコール酸)、TDCA(タウロデオキシコール酸)などの胆汁酸は生物学的起源の試料中に存在することがあり、PFOSと同じMS/MS遷移(m/z 499→80)を共有するため、分析の妨げとなる場合があります。*8

PFOSを正確に定量するためには、これらの胆汁酸をサンプル調製の段階で除去するか、クロマトグラフィーによってPFOSとの分離が必要です。*10

測定濃度が低い上に対象物質が多い

メイン州において、牛乳中のPFOS規制値がng/Lオーダーとなっているように、測定濃度が非常に低いという問題があります。さらに、PFASは1万種類以上あり、鎖長によって挙動が変わるため、調査のしやすさに違いがあるといわれています。

分析機器や実験器材からの汚染

PFASは実験室環境に広く存在し、プラスチック製品や試薬、溶媒、実験機器などから浸出して分析結果に干渉する可能性があります。そのため、正確な測定には、PFASフリーの試験用品を使用する必要があります。*11

メルクのカラム・メンブレンを使用して、牛乳中の16種類のPFASを一括・高感度で分析

メルクは、QuEChERS(FDA メソッド C-010.02 準拠)を用いた牛乳中16種類の PFAS の LC-MS/MS 分析を行い、高感度測定を実現しました。この手法は、米国食品医薬品局(FDA)のガイダンスによるもので、食品中のPFAS抽出のために改良型QuEChERS(Quick, Easy, Cheap, Effective, Rugged, Safe)法と分散型固相抽出(dSPE)を用い、その後LC-MS/MSで測定するメソッド(C-010.02)です。

牛乳サンプルを測定した結果、0.02 ng/mLが下限定量値、回収率は全て40~120%の許容範囲内に収まり、%RSDは11%未満でした。

この分析における各工程で使用したメルク製品(一部)は以下のとおりです。

● HPLC分析
Ascentis® Express 90 Å PFAS HPLC カラム:高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラム。PFAS専用設計で、バックグラウンドピークが極めて少ない。
Ascentis® Express 90 Å PFAS Delay カラム:LC システム(ポンプや配管、フィッティング、フィルターなど)由来の PFAS 汚染の影響を減らすため、ミキシングバルブからオートサンプラーの間に挿入するもの。

● サンプル調整
Supel QuE PSA/ENVI-Carb™ Tube 3, 15 mL チューブ, 50 本入り
Supel QuE Non-Buffered Tube 2, 50 本入り

Millex Nylon syringe filter SLGNX13:液体試料を分析前にろ過するための使い捨てフィルター。汚染の心配がないため安心して利用できる。

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本記事では、牛乳におけるPFAS問題の背景、最新規制動向、分析上の課題、そしてメルクのソリューションを紹介しました。健康リスクの観点から、牛乳中のPFASは厳密に管理されるべきであり、その実現には超微量分析技術の導入が欠かせません。

メルクでは、改良型QuEChERS法とdSPEによる牛乳中PFAS分析について、実験条件、検証データ、使用機器リストをまとめたアプリケーションノートをご用意しています。ぜひ以下よりダウンロードしてご活用ください。

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