HPLCを行うときのアセトニトリルの選び方
リーマンショックが研究にも影響
有機合成の溶媒として、医薬、農薬、精密化学などで幅広く利用されるアセトニトリル。分析化学の分野では、高速液体クロマトグラフ(HPLC)の移動相によく用いられます。
今から10年ほど前、アセトニトリルが不足してHPLC実験を行えないという事態が発生しました。研究室からアセトニトリルが消えてしまったのです。
原因は2008年のリーマンショックでした。自動車産業が減速し、自動車によく使われるABS樹脂の需要量が減少。その原料であるアクリロニトリルの製造量も減りました。アセトニトリルはアクリロニトリル製造時の副産物として生産されているためです。
こうした流れを受け、HPLCユーザーや医薬品製造現場で必要量が手に入らないという困った状況が起きてしまいました。現在は、この時の反省を踏まえ、供給が滞ることがないように各試薬メーカーがアセトニトリルの原料メーカーとともに努力をしています。
HPLCにアセトニトリルが選ばれる理由
HPLCではメタノールを移動相に使う場合もありますが、アセトニトリルの方がより多く用いられています。メタノールに比べれば高価なアセトニトリルが選ばれるのはなぜでしょうか。
大きな要因として、第一に、紫外線吸収の小ささが挙げられます。移動相に用いる有機溶媒の紫外線吸収は小さい方がノイズを最小に抑えられます。
第二に、アセトニトリルをHPLC溶媒として使った場合のカラム圧の低さが挙げられます。メタノールは水と混合すると圧力が高くなりますが、アセトニトリルはメタノールほど高くはなりません。カラム圧が高いと、カラムに余計な圧力がかかりトラブルが起きやすくなります。
この二つの理由からも、高速化・高感度化が進む現在の分析手法において、アセトニトリルはメタノールに比べて実験に適した溶媒といえるでしょう。
実験目的に適したグレードのアセトニトリルを選ぼう
さらにそのアセトニトリルの中にもグレードが存在します。分析目的に応じて、適した溶媒を選ぶことが重要です。メルクの製品を例に、代表的な3つのグレードを説明します。
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アイソクラティックグレード
もっともベーシックなグレード。製品規格として、純度・性状・蒸発残渣・水分・酸度・アルカリ度・透過率・フィルターろ過を設定しています。 -
グラジエントグレード
アイソクラティックグレートよりも多くの試験項目を実施し、密度・色調・反射率・沸点・蛍光試験・ベースライン試験(254、365nm)・吸光度試験(200、210、220、230、240nm)も規格項目として設定しています。医薬品分析の3局対応(JP、USP、EP)の他、環境や食品分析にも適しています。 -
ハイパーグレード
LC-MSやQ-TOF LC-MS用に使用するグレード。アイソクラティックグレートやグラジエントグレードの規格に加えて、不純物金属(ICP-MS)・蛍光検出の適合性試験・イオントラップ試験を実施しています。これだけ多くの試験項目を設けることで、溶媒中の不純物としてよく知られている金属由来の不純物反応して付加物を形成することを防ぎます。この付加物の存在は、複雑なマススペクトルの観測やピーク形状のブロード化、イオン化阻害の原因となり、定性や定量に影響を与えます。
さらにメルクでは、全てのグレードで0.2μmのフィルター処理を行い、パーティクルを除去しています。溶媒中のパーティクルは、高価なカラムを詰まらせたり、HPLCシステムの背圧を高めたりする原因となります。
3つのグレードの違いを表にまとめました。
アセトニトリルには他にもいろいろな特長があります。
- 化学的に安定
- 広範囲な溶解力がある
- 水と混合すると吸熱反応が起こり温度が下がる
- 沸点が適度(82℃)で扱いやすい
以上のように、大変便利なアセトニトリルですが、危険物第四類第一石油類であり、毒物および劇物取締法の劇物に指定されています。研究室や試験室での保管や取り扱いには十分気をつけて分析実験を行いましょう。
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