揮発性有機化合物との付き合い方、シックハウス症候群を例に

揮発性有機化合物との付き合い方、シックハウス症候群を例に

揮発性有機化合物が引き起こす「シックハウス症候群」

揮発性有機化合物(VOCs:Volatile Organic Compounds)は、実験のほかにも溶剤として塗装、洗浄、印刷などの作業に幅広く使用されています。一方で、常温常圧で大気中に容易に揮発するため健康被害を起こすものもあり、最近ではホルムアルデヒドによるシックハウス症候群や化学物質過敏症が社会に広く認知されて問題となっています。

シックハウス症候群は、欧米ではシックビルディング症候群とも呼ばれており、内装材や合板などの接着剤、抗菌・防カビ加工を施した建材などから放出される化学物質を体内に吸い込むことによって発症します。実験室では排気しながら作業を行いますが、高気密化・高断熱化が進んだ建物では、化学物質が室内に溜まりやすくなり、目や鼻、のどの異常や、吐き気、頭痛、湿疹などさまざまな症状を引き起こすのです。症状が酷い人では通常の生活が困難になるような衝撃的な事例も多く報告されています。

こうした背景から、建築基準法も改正され、建材や家具に使用して良い合板などに、JIS(日本工業規格)やJAS(日本農林規格)が定められました。その最高位がF☆☆☆☆(フォースター:ホルムアルデヒドの放散量が0.12mg/l以下の製品)で、消費者にも分かりやすく等級が表示されます。しかし、忘れてはならないのが、この規制はホルムアルデヒドしか対象になっていないということです。

シックハウスの原因物質としては、厚生労働省から指針値が示されているもので13物質あります。また、一般的な石油ストーブやガスストーブからも一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質が放出されます。このように、室内の状況によっては、厚生労働省の指針に含まれない化合物の中に有害な物質が含まれる可能性が残っています。このため、F☆☆☆☆の材料を使用しているからといって、シックハウス対策が万全というわけではありません。

シックハウス症候群を避けるためには、室内にどんなVOCsがどのくらいの濃度で存在しているのかを実際に測定し、その原因を究明することが重要です。

沸点ごとに定義される揮発性有機化合物

VOCsの定義は曖昧で、揮発するすべての化合物を指すこともある一方、世界保健機構(WHO:World Health Organization)では、沸点範囲が50℃以上260℃未満の化合物の総称をVOCsとして定義しています。

WHOではVOCs以外の化合物群ごとの総称も発表しており、その沸点範囲は以下の通りです。

  • <50℃:高揮発性有機化合物(VVOCs: Very Volatile Organic Compounds)
  • 50~260℃:揮発性有機化合物 (VOCs: Volatile Organic Compounds)
  • 260~400℃:半揮発性有機化合物(SVOCs: Semivolatile Organic Compounds)
  • >400℃:粒子状有機化合物(POMs: Particulate Organic Matter)

WHOの総称に従うと、身近に使われているVOCsは以下のように分類されます。

  • VVOCs:ホルムアルデヒド(-21℃)、アセトアルデヒド(20℃)、n-ペンタン(36℃)など
  • VOCs:アセトン(56℃)、メタノール(65℃)、ヘキサン(69℃)、ベンゼン(80℃)、トルエン(110℃)、キシレン(140℃)、テトラデカン(253℃)など

VOCsは沸点のみならず、極性、分解性、毒性、臭いの閾値など化合物ごとにその特性が異なるため、取扱いには注意が必要です。

揮発性有機化合物による健康被害の予防

人は1日にどれくらいの空気を吸うのか考えてみましょう。体重50kgの成人の場合、1日の呼吸量は約15,000Lで、その重さは約20kgにもおよびます。これはお茶碗約100杯分のごはんに相当します。水や食品を1日に20kg摂取することはないため、このことから日常生活において空気の質がいかに重要であるかが分かります。

さらに、人は家や学校、会社などの室内で多くの時間を過ごしています。そのため、国は様々な場面において、換気回数やVOCsおよび個別の化合物の基準や指針を設け、室内における空気環境の注意を促しています。

<揮発性有機化合物に関する国の基準や指針の一例>

環境省

  • 大気汚染防止法におけるベンゼンの排出基準:1年平均値が0.003mg/m³以下であること、他

厚生労働省

  • 作業環境測定基準におけるベンゼンの管理濃度:1ppm
  • ビル衛生管理法の建築物環境衛生管理基準におけるホルムアルデヒドの量:0.1mg/m³以下(=0.08ppm以下)
  • トルエンの室内濃度指針:260μg/m³、他

国土交通省

  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律におけるトルエンの指針値:260μg/m³、他

文部科学省

  • 学校衛生基準におけるトルエンの指針値:260μg/m³、他

化学物質を取り扱う研究者にとって、実験室の空気環境は非常に重要です。労働安全衛生法に従い、衛生管理者を設置して適切に管理することはもちろん、必要に応じてドラフトチャンバーを使用したり、マスクや保護メガネを着用したりして身を守ってくださいね。管理者任せにせず、一人ひとりがより良い環境を目指し、日ごろから改善に取り組みましょう。

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