研究成果の向上にもつながる化学物質の安全管理

研究成果の向上にもつながる化学物質の安全管理

化学物質の安全な取り扱いのために

日頃から実験、研究を行っている人にとって、化学物質は身近な存在です。しかし、それは常に危険と隣り合わせにあるということを意味します。化学物質の取り扱いがルーチンワークと化してしまうと、取り扱いプロセスについて深く考えることがなくなってしまうこともあるのではないでしょうか。

化学物質は健康や環境に有害な影響を及ぼしたり、爆発性や引火性などにより甚大な災害を引き起こしたり、特定の性質のものが混合されることで有害ガスを発生させたりと、その危険性は様々です。

化学物質の取り扱いにおいて大切なことは、それぞれの性質を熟知し、適切な取り扱い、保管、廃棄方法を実施することです。また、研究者は安全な管理に関するルールを再確認し、事故を起こさない、万一起こってもその被害を最小限に抑える必要があります。

しかし、それらすべてを覚えることは難しいもの。そこで、化学物質の供給会社はそれぞれの化学物質の特徴を製品ラベルに記載し、GHS基準に基づくシンボルマークを表示、SDS(安全データシート)、MSDS(化学物質等安全データシート)を用意するなどして、安全な取り扱いおよび保管に関する情報を提供してします。こうした情報を定期的に確認、アップデートしていきましょう。

健康や環境に悪影響を及ぼす化学物質

健康に被害を及ぼす化学物質は保管や輸送、廃棄も含めて取り扱いに注意が必要です。ごく少量の摂取や吸引、接触でさえ重篤な健康被害を引き起こす場合があります。また、単体のみならず、反応することで危険性が増す物質もあります。代表的な化学物質5つを以下に示します。

  • アクリルアミド:飲み込むと慢性的な神経障害を引き起こす。
  • アセトニトリル:揮発性のため経口および経皮吸収されやすく、吐き気や嘔吐などを引き起こす。
  • 水銀及びその化合物:強い毒性を持つ。蒸気や粉塵の吸入には十分な注意が必要。
  • ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物:湿気に敏感な化学物質。水分と反応して引火性ガス(水素)を発生させる危険がある。
  • 高濃度の強酸(発煙硫酸、硝酸、塩酸など):臭素など腐食性の蒸気を発生させやすい。

これらの物質を扱うときは、換気装置を使用してばく露を避ける、保護メガネやマスクを着用する、取扱い後はよく手を洗うなどの安全対策を取りましょう。

爆発の危険性が高い化学物質とその保管・廃棄方法

過酸化物を形成するエーテル類、不飽和炭化水素、アルデヒドなどは爆発の危険性があります。これらの化学物質による爆発の原因は、液体容器の振とうや、開封時に瓶の首についた過酸化物が摩擦による反応などが挙げられます。また、硝酸塩やニトロ化酸、過酸化水素溶液などはアセトンやアルコール、ジエチルエーテルなどの引火性還元性物質と激しく反応する可能性があります。

このような危険な物質は、保管場所を分けて、決して混合することが無いよう管理する必要があります。日本は地震が多い国ですので、これらの化学物質が薬品棚の倒壊などで混合されれば、二次被害が起こることが容易に想像できます。危険性の高い物質ほど、長期の保管を避ける意味でも、使い切りを念頭に置いた小容量のものの利用することを検討してみるのも良いでしょう。

どんなに注意深く使用していても化学物質が入った容器を破損したり、不注意からこぼしてしまうこともあります。この時、実験台が化学物質で汚れていたり、書類や電気機器が放置されていたりすると、化学物質によっては台上に残った物質と化学反応を起こして有害ガスを発生したり、引火、爆発したりなどの危険な状況に陥る場合があります。こうしたことを起こさないよう、化学物質を取り扱う場所は常日頃から清潔にし、余計なものを置かないなど整理整頓しておきましょう。

化学物質をこぼしてしまった場合の対処法

予期せず化学物質をこぼしてしまった場合は、管理責任者に連絡すると共に、化学物質による汚染の拡大、人へのばく露を防ぐために、その場への立ち入りを禁止して速やかに回収することが大切です。回収時には身体外部・内部への化学物質の接触を防ぐために、保護衣、手袋、マスク、保護メガネなど保護器具を適切に装備することを忘れないようにしましょう。

引火性の液体を処理する場合は、最初にブンゼンバーナーや電気機器などを移動させ、火花の発生源を取り除きます。冬場は静電気が帯電しやすくなっているので、火花の発生源として注意が必要です。予防措置として、液体注入時などは容器壁面を伝うようにしてゆっくり一定速度で注ぎ、使用する器具類は「伝導性のもののみ」、もしくは「非伝導性のもののみ」のどちらか一方を使うよう心がけましょう。

さらに部屋の換気を十分に行い、こぼれた液体は吸着剤などを使って吸着させて回収します。メルクで取り扱っているケミゾーブ(Chemizorb®)を用いるのもおすすめです。

ケミゾーブ(Chemizorb®)は化学的に不活性な多孔性吸着剤は自重の最大4倍量まで吸収することができる多孔質鉱物または合成コポリマーで、各化学物質やシチュエーションに適した製品がラインナップされています。実験室のわかりやすいところに置いておけば、いざというときにも慌てることなく対処することができるはず!

回収作業が終了したら、すぐに作業箇所の残留汚染検査を行う必要があります。無蛍光、無色の化学物質は適切な溶剤に浸したモップで作業場所を拭き、そのモップに付着した化学物質の定量分析を行います。蛍光物質は作業場所表面を長波長のUV光で調べるなどして判別できます。化学物質の処分は所属する機関施設、都道府県の規則に従うと共に、産業廃棄物処理業者に依頼するなど関係法令に従って処理しましょう。

化学物質のリスクマネジメントは研究成果の向上にも有効

化学物質による事故は偶発的に発生するものではなく、そのほとんどが人為的な理由で発生します。このことから分かるように、化学物質が危険なのではなく、化学物質の不適切な取り扱いが危険を生むといえるでしょう。言い換えると、適切に対応することができれば多くの事故を未然に防ぐことができるのです。

リスクマネジメントは、単に化学物質による事故や健康被害を防止するためだけのものではなく、研究成果の向上や業務効率を高めるためにも有効です。実験室中の安全装備、保護具や器具、救急措置に必要な備品やプロセスなどを確認し、安全安心な化学物質の使用環境を確認してみてくださいね。

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