定量的ウェスタンブロットにおけるローディングコントロールの選び方

定量的ウェスタンブロットにおけるローディングコントロールの選び方

定量的ウェスタンブロットとローディングコントロール

ウェスタンブロッティングは、細胞または組織から抽出された複雑な混合物から特定のタンパク質を同定するために広く利用されている免疫検出技術です。

その中でも定量的ウェスタンブロットは、異なる個体、条件、病状、または他の生物学的変数を表す一群のサンプルにおいて、標的タンパク質の相対量を比較するために使用されます。その際、複数サンプルの総タンパク質レベルを正確に識別して測定するため、内部標準として「ローディングコントロール」が用いられます。このコントロールは、すべてのサンプル中に存在すると推定され、その相対存在量が生物学的変動または実験条件によって影響されないタンパク質に対する一次抗体の添加を指します。ローディングコントロールの候補タンパク質としては、偏在的に発現される「ハウスキーピング」遺伝子産物が一般的に良いとされています。

この記事では、ローディングコントロール抗体を選ぶ際に留意すべき点と、ローディングコントロール抗体を使って効果的な結果を得るためのヒントについて解説します。

ローディングコントロール抗体の選択

β-アクチンやβ-チューブリンは、ほとんどのモデル系で比較的恒常的に発現しているため、ローディングコントロールとしてよく使用されています。

しかし、一部の論文ではβ-アクチンおよびβ-チューブリンのレベルが組織間で異なり、それらの発現が病態によって影響を受ける可能性があるという理由から、標準的なローディングコントロールとしてβ-アクチンを使用することの妥当性を疑問視する声もあります。(Ditmar and Ditmar, 2006; Eaton et al., 2013; Li and Shen, 2013)。これらの論文の著者たちは、定量的ウエスタンブロッティングにおける代替技術として全タンパク質分析を示唆しており、「ハウスキーピング」遺伝子産物は実験中の遺伝子の発現パターンを研究した後に慎重に使用すべきであると推奨しています。

それでもなお、β-アクチンとβ-チューブリンはローディングコントロールとして一定の利点があります。これらは高度に保存されており、高い発現レベルを示し、ほとんどの実験条件下で安定的です。研究している具体的な組織または細胞を踏まえてコントロールを選ばなければならないということ、そしてローディングコントロールの均一性を検証するために、実験に基づいた試験が必要になるという点に留意することが重要です。

ローディングコントロール抗体から効果的な結果を得るためのヒント

ウエスタンブロッティングのばらつきを克服し、データ解釈の誤りを減らすためには、以下の予防策が役立ちます。

  • 安定的に発現し、実験条件による影響を最小限にとどめる内部ローディングコントロールを使用する。

  • サンプル中に恒常的に発現していることが既知のタンパク質に対するローディングコントロール抗体を選択する。

  • 1つ目のコントロールで得られた結果を実証するために、2つ目のローディングコントロールを利用する。これは新しい、もしくは新奇性の高いサンプルにおいて特に意義があります。

  • ローディングコントロールには幅広い分子量のものがあり、コントロールには標的タンパク質と同じ分子量ではないが、類似の分子量レンジのものが選択されます。これにより、標的のバンドとコントロールバンドの両方がブロット上で簡単に区別できます。

  • ローディングコントロール抗体は、大量に発現しているハウスキーピングタンパク質を検出していることが多く、特に化学発光検出法を使用する場合はシグナル飽和を引き起こします。過飽和を起こすとローディングコントロールバンドが参照として役に立たず、サンプル間における標的タンパク質量のばらつきを隠してしまう可能性があります。

ローディングコントロールシグナルが検出の直線範囲内であることを確認するため、開始前に、使用するサンプルでローディングコントロールの抗体濃度およびブロット暴露時間を調整しましょう。

表1:ローディングコントロールの例

Loading Control
(リンク:抗体の一例)
Molecular Weight (kDa) Suitable for Notes
β-Actin 43 全細胞および細胞質抽出物 骨格筋のようにアクチンレベルの高い組織には使用しないでください。
Glyceraldehyde 3-phosphatase dehydrogenase (GAPDH) 35 全細胞および細胞質抽出物 発現レベルは、組織の種類や病状によって異なります。
β-Tubulin 50 全細胞および細胞質抽出物 発現は通常生物種間で一貫しています。 発現は細胞分裂抑制薬の影響を受ける可能性があります。
Voltage-dependent anion channel protein 1 (VDAC1) 31 ミトコンドリア VDAC1はアポトーシスを起こしている細胞内でオリゴマー化する可能性があります。 腫瘍細胞はより高レベルのVDAC1を示すことがあります。
Cytochrome c Oxidase 16 ミトコンドリア サンプルは血漿タンパク質に汚染される可能性があります。 したがって、ミトコンドリアを単離するために適切な勾配を使用してください。 複数のサブユニットがあり、これらのサブユニットの発現は組織の種類によって異なります。
HSP60 60 ミトコンドリア HSP60レベルは酸化ストレスまたは温度ストレスによって変化します。 腫瘍細胞は高レベルのHSP60を示します。
Lamin B1 66 核膜 生物種を超えて高度に保存されています。 細胞老化の良いマーカーです。
TATA-binding protein (TBP) 38 TBPはDNAおよびその他の核成分が除去された場合のローディングコントロールとして推奨されません。
Histone H2B 14 ヒストンレベルは細胞分裂の前に増加します。 したがって、S期とS期前の細胞との比較には適していません。 細胞同期をお勧めします。
Proliferating cell nuclear antigen (PCNA) 36 PCNAはDNA損傷経路の活性化により急速に分解されます。
Transferrin 75 血清 トランスフェリンレベルは、鉄欠乏の条件下で高く、肝臓病において低いです。

表2:抗体コントロールの選択肢

カタログ番号 製品名 交差性 アプリケーション 容量
A5441 Anti-β-Actin antibody, Clone AC-15 H, M, R, B, Ca, carp, Ch, Fe, Gp, Hirudo medicinalis, Po, Rb, Sh ELISA(i), IF, IHC(p), WB 100 μL, 200 μL, 500 μL
A2066 Anti-Actin antibody, Rabbit polyclonal H, amoeba, Ch, slime mold, wide range, WR IF, IHC(p), WB 100 μL, 200 μL
05-661 Anti-β-Tubulin Antibody, clone AA2 H, M, R, B WB 200 μg
CB1001 Anti-GAPDH, Clone 6C5 H, M, R, Ca, Ch, F, Fg, Porcine, Rb ICC, WB 500 μg
G8795 Anti-GAPDH antibody, Clone GAPDH-71.1 H, M, R, B, Ca, Ch, Ht, mink, Mk, Rb, turkey ARR, ELISA (i), ICC, WB 25 μL, 100 μL, 200 μL
G9545 Anti-GAPDH antibody, Rabbit polyclonal H, M, R IF, IP, WB 100 μL, 200 μL
AB10527 Anti-VDAC Antibody, Rabbit polyclonal H, M, R, B, Chp, Eq, Po, Rm WB 100 μg
AB10526 Anti-COX4 (Cytochrome c Oxidase), Rabbit polyclonal H IHC(P), WB 100 μg
PLA0269 Anti-HSP60 Antibody, Rabbit polyclonal H, M IHC, IP, PLA, WB 100 μg
07-371 Anti-Histone H2B, Rabbit polyclonal H, Ch WB 200 μg
05-1352 Anti-Histone H2B, Clone 5HH2-2A8 H, M, R ICC, WB 100 μL
MABE288 Anti-PCNA, Clone PC10 H IF, IHC, WB 200 μg

以上、ローディングコントロール抗体を選ぶ際に留意すべき点と、効果的な結果を得るためのヒントについて解説しました。適切なコントロールの使用は、結論を裏付ける証拠としてデータに説得力を与えます。ローディングコントロール抗体の選び方や効果的な使い方をよく理解し、データ収集に活用しましよう。

参考文献

Dittmer A and Dittmer J. (2006). Electrophoresis. 27(14):2844-2845.
Eaton, SL et al. (2013). PLOS One. doi.org/10.1371/journal.pone.0072457.
Li, R and Shen, Y (2013). Life Sci. 92(13); 747-751.

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