ウェスタンブロッティングとローディングコントロールの重要性

ウェスタンブロッティングとローディングコントロールの重要性

ウェスタンブロッティング

1979年にウェスタンブロッティングについて初めての論文が発表されて以来(Renart et al., 1979)、この免疫検出技術は、細胞または組織から抽出された複雑な混合物から特定のタンパク質を同定するために広く利用されています。

ウェスタンブロッティングという技術は以下の3つの基本要素から構成されています。

  • タンパク質の大きさによる分離
  • 膜への転写
  • 標的タンパク質に対する一次抗体と標識二次抗体を用いた可視化

その後、ツールと技術の改良および高感度の蛍光ラベルの開発によって、検出限界は有意に高くなり、組織特異的な正常経路および疾患経路の調査を可能にしました。

しかし、タンパク質レベルの変化を同定する定量的ウェスタンブロットを行う際には、いくつかの困難が存在します。この原因は多くのタンパク質が、異なる組織において、また、異なる生理学的および病理学的条件下において、発現パターンの変化を見せることによります。

この記事では、定量的ウェスタンブロットにおいて重要となるローディングコントロールについて紹介します。

ローディングコントロール

定量的ウェスタンブロットは異なる個体、治療条件、病状、または他の生物学的変数を表す一群のサンプルにおいて、標的タンパク質の相対量を比較するために使用されます。

複数サンプルの総タンパク質レベルを正確に識別して測定するため、内部標準として「ローディングコントロール」が用いられます。このコントロールは、すべてのサンプル中に存在すると推定され、その相対存在量が生物学的変動または実験条件によって影響されないタンパク質を利用します。ローディングコントロールの候補タンパク質としては、偏在的に発現される「ハウスキーピング」遺伝子産物が一般的に良いとされています。

ローディングしたサンプル間でコントロールのタンパク質の量が同一であるという仮定に基づき、各サンプル内のタンパク質量を定量化することが可能になります。

ローディングコントロールの使用は「エッジ効果」を防ぐこともできます。エッジ効果とは、多数のレーンを使用した場合に一般的に見られる状態で、外側のレーンのタンパク質は、膜に転写する際にフレームに近い位置に転写され、ブロットの端でより強い染色を引き起こします。ローディングコントロールは、タンパク質のローディングにおいて変動が起こったかどうかを示すのに用いられ、標的のバンドで観察された変動を説明可能です。ローディングコントロールを正しく使用すると、ウェスタンブロットのレーン全体においてローディング量にわずかな違いがあるにもかかわらず、タンパク質が適切に定量されます。

抗β-アクチンモノクローナル抗体(A5316)のウェスタンブロット検証

以下の図は抗β-アクチンモノクローナル抗体(A5316)のウェスタンブロット検証の結果です。β-アクチン、β-チューブリン、GAPDHなどの恒常的に発現されるタンパク質は、定量的ウェスタンブロッティング用のローディングコントロールとしてよく選ばれます。ローディングコントロールの使用は、標的タンパク質の存在量の明らかな変動が、関連する生物学的な変動に起因するものであり、ゲルにロードされた総タンパク質量の不一致によるものではない、ということを確実にするのに役立ちます。

下記の表は、ウェスタンブロッティングのローディングコントロールとして有用なサンプルおよび条件特異的な抗体を示します。

表1:ローディングコントロール例

Loading Control
(リンク:抗体の一例)
Molecular
Weight (kDa)
Suitable for Notes
β-Actin 43 全細胞および細胞質抽出物 骨格筋のようにアクチンレベルの高い組織には使用しないでください。
Glyceraldehyde 3-phosphatase dehydrogenase (GAPDH) 35 全細胞および細胞質抽出物 発現レベルは、組織の種類や病状によって異なります。
β-Tubulin 50 全細胞および細胞質抽出物 発現は通常生物種間で一貫しています。 発現は細胞分裂抑制薬の影響を受ける可能性があります。
Voltage-dependent anion channel protein 1 (VDAC1) 31 ミトコンドリア VDAC1はアポトーシスを起こしている細胞内でオリゴマー化する可能性があります。 腫瘍細胞はより高レベルのVDAC1を示すことがあります。
Cytochrome c Oxidase 16 ミトコンドリア サンプルは血漿タンパク質に汚染される可能性があります。 したがって、ミトコンドリアを単離するために適切な勾配を使用してください。 複数のサブユニットがあり、これらのサブユニットの発現は組織の種類によって異なります。
HSP60 60 ミトコンドリア HSP60レベルは酸化ストレスまたは温度ストレスによって変化します。 腫瘍細胞は高レベルのHSP60を示します。
Lamin B1 66 核膜 生物種を超えて高度に保存されています。 細胞老化の良いマーカーです。
TATA-binding protein (TBP) 38 TBPはDNAおよびその他の核成分が除去された場合のローディングコントロールとして推奨されません。
Histone H2B 14 ヒストンレベルは細胞分裂の前に増加します。 したがって、S期とS期前の細胞との比較には適していません。 細胞同期をお勧めします。
Proliferating cell nuclear antigen (PCNA) 36 PCNAはDNA損傷経路の活性化により急速に分解されます。
Transferrin 75 血清 トランスフェリンレベルは、鉄欠乏の条件下で高く、肝臓病において低いです。

以上、定量的ウェスタンブロッティングにおけるローディングコントロールについて解説しました。コントロールの使用は、結論を裏付ける証拠として、論文などに掲載するデータには不可欠です。適切なコントロールを用いて正しいデータを手に入れましょう。

参考文献
Renart, J et al. (1979). Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 76:3116-3120. PMID: 91164

 

下記フォームでは、M-hub(エムハブ)に対してのご意見、今後読んでみたい記事等のご要望を受け付けています。
メルクの各種キャンペーン、製品サポート、ご注文等に関するお問い合わせは下記リンク先にてお願いします。

メルクサポート情報・お問い合わせ

*入力必須

    お名前 *
    メールアドレス *

    電話番号 *

    勤務先・所属先 *

    お問い合わせ/記事リクエスト内容 *