タンパク質実験における界面活性剤の重要性

タンパク質実験における界面活性剤の重要性

タンパク質実験に欠かせない界面活性剤

顔や体を洗う石けん、衣類の洗剤や柔軟剤、化粧品といった、日常生活のあらゆる場面でも使われている界面活性剤。ライフサイエンス領域では、タンパク質の可溶化や変性の他、細胞からのタンパク質抽出などの実験で幅広く利用されています。

界面活性剤は、異なった性質を持つ2つの物質の界面に作用して、性質を変化させる化学物質の総称です。構造としては1つの分子の中に疎水基と親水基の2つの部分を持っており、両親媒性分子と呼ばれることもあります。

この記事では、界面活性剤の性質を中心に、界面活性剤がどのように生体膜の膜タンパク質に作用し可溶化するか解説します。

界面活性剤の性質と基本構造

界面活性剤は水溶性の分子であり、その両親媒性により、疎水性化合物を水中に溶解させます。また、膜タンパク質などの疎水性タンパク質の水溶解性を促進する一方で、タンパク質の折り畳まれた形状を維持します。

これらの分子は、長い疎水性炭素鎖(尾部)の末端に極性基(頭部)を含有しており、純粋な極性または非極性の分子とは対照的に、水中で独自の性質を示します。極性基は水分子と水素結合を形成する一方、炭化水素鎖は疎水性相互作用が原因で凝集するのです。

水溶液中では、界面活性剤は外側に親水基、内側に疎水基を持つミセルと呼ばれる球体構造(図1)を形成します。界面活性剤がこのミセルを形成する最低濃度を臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration: CMC)と呼びます。

図1 水中の界面活性剤ミセル

CMCは界面活性剤の特徴を示す重要な数値であり、光散乱による疎水性色素を可溶化能力の測定、または表面張力の測定により評価できます。

界面活性剤による膜タンパク質可溶化の仕組み

界面活性剤は、親水性と疎水性の領域を持つ分子です。界面活性剤に特有の濃度 (critical micelle concentration, CMC) を越えたとき、自己結合が起こりミセルと呼ばれる構造が形成されます*ミセルは内側が疎水性、外側が親水性の特性を有し、生体の脂質二重膜のように膜タンパク質を可溶化することができま*

膜タンパク質の疎水性領域は界面活性剤分子が作るミセルに取り囲まれ、膜タンパク質の親水性領域がミセルの外側に露出することで水性媒体に接触します*これにより膜タンパク質が水溶性の溶液中に維持されます。界面活性剤を完全に除去したとき、疎水性領域のクラスターが形成されることによって膜タンパク質は凝集し、沈殿します*

二重層環境のシミュレーションにおいてリン脂質を界面活性剤として使用することもできますが、リン脂質は小胞と呼ばれる大きな構造体を形成し、膜タンパク質の単離や特性解析が容易ではありません。

リン脂質のなかでも、リゾリン脂質は多くの界面活性剤が形成するものと同様の大きさのミセルを形成しますが、日常的なバイオ実験で一般使用するには価格が高いという課題があります。そのため、膜タンパク質の単離には、合成界面活性剤の使用が強く好まれます。

界面活性剤による膜の分解は、図2のように複数の異なるステージに分けることができます。

図2 界面活性剤を用いた生体膜溶解の複数ステージ

低濃度では、界面活性剤は脂質二重層を分割することにより膜に結合します。一方、高濃度では、二重層が界面活性剤で飽和したときに、膜が分解して界面活性剤分子との混合ミセルが形成されます。界面活性剤-タンパク質混合ミセル中では、膜タンパク質の疎水性領域がミセルの疎水性鎖に取り囲まれています。

また、最終ステージでは、膜の可溶化の結果、脂質と界面活性剤とタンパク質を含有する界面活性剤ミセル(通常はタンパク質1分子/ミセル)から構成する混合ミセルが形成されます。

例えば、ロドプシンを含有する膜ジギトニンで可溶化すると、ジギトニン180分子から構成されるミセルあたりロドプシン1分子を含有する複合体が形成されます。

中間濃度の界面活性剤溶液では、脂質を含有するミセル、界面活性剤を含有するミセル、脂質-タンパク質-界面活性剤分子を含有するミセルのその他の組合せが可能です。 タンパク質-界面活性剤分子を含有するミセルは、電荷、大きさまたは密度に基づき、他のミセルから分離することができます。

*R. Michael Garavito,and Shelagh Ferguson-Miller.Detergents as Tools in Membrane Biochemistry.J. Biol. Chem. 2001, 276:32403-32406

膜タンパク質可溶化に重要な「界面活性剤:脂質:タンパク質」比

膜タンパク質の構造や機能を理解するためには、元の形態からタンパク質を注意深く単離し、十分に精製する必要があります。そこで重要になる界面活性剤の濃度と界面活性剤-脂質-タンパク質の比の関係について、以下、4つのポイントをぜひ覚えておいてください。

  1. 界面活性剤が低濃度の場合
    モノマーが膜に結合するだけで、膜への影響は最小限です。

  2. 界面活性剤が高濃度の場合
    膜の溶解が起こり、脂質-タンパク質-界面活性剤の混合ミセルが形成されます。

  3. もっと高い界面活性剤濃度の場合
    界面活性剤、脂質およびタンパク質の不均一な複合体が形成されます。これにより、脂質-タンパク質-界面活性剤の混合ミセルの脱脂が進行します。さらに、脂質が濃度の増加する界面活性剤ミセル中に分布することによって、脂質/界面活性剤およびタンパク質/界面活性剤の混合ミセルが形成されます。

  4. 界面活性剤濃度が増加し、定常点を過ぎる場合
    もはや可溶化は進まなくなり、タンパク質の活性が低下し始めます。

以上、界面活性剤の性質を中心に膜タンパク質の可溶化について紹介しました。臨界ミセル濃度(CMC)や界面活性剤-脂質-タンパク質の比について理解しておくと、実験に使用する界面活性剤の選択に役立つことでしょう。

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