ウェスタンブロットの基本の流れ—成功に導くヒント—

ウェスタンブロットの基本の流れ—成功に導くヒント—

実験のクオリティを決めるウェスタンブロット

ウェスタンブロットは、ライフサイエンスの研究において一般的に選択される実験方法。タンパク質抗原の多数の重要な特性を確認することができます。特に「不溶性の抗原や標識が困難な抗原」、「容易に分解されて免疫沈降法などに適用不可能な抗原」を取り扱う場合に有用です。

また、「ゲルに流す」ことでタンパク質の特性について多くを知ることができるだけでなく、分画されたタンパク質サンプルをゲルからトランスファーメンブレン(ブロット)に移し、特異抗体を用いて検出することで、さらに多くの情報が取得できます。

ウェスタンブロットをマスターすることは、実験の成功に非常に重要です。この記事では、実験を成功させるためのテクニカルヒントとともに、その基本的な流れを解説します。

ウェスタンブロットの主要なステップ

基本的なウェスタンブロットは、次の6つの主要なステップから成り立っています。

  1. サンプル調製
  2. ゲル電気泳動
  3. メンブレントランスファー
  4. 非特異的結合の阻害(ブロッキング)
  5. 抗体の添加
  6. 検出

では、この6つの工程について、テクニカルヒントも交えながら具体的にみていきましょう。

  1. サンプル調製
    未標識のタンパク質溶液は、細胞または組織の抽出液であることが多いはず。そのため、ゲル電気泳動サンプル調製用バッファーで調製する必要があります。このとき、ある程度の長さの疎水性アミノ酸を含有するタンパク質(膜タンパク質など)は、沸騰すると凝集しやすくなるので要注意。サンプルの煮沸は行わないようにしましょう。

  2. ゲル電気泳動

    ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)は、サイズ、形状、電荷に基づき、個々のタンパク質を非変性条件下で分離するために利用されます。これは一般的にネイティブPAGEと呼ばれます。

    非変性条件下において、一部のタンパク質の遊走は、二次構造や、より高次元の構造の保持による影響を受けます。これらの構造は、隣接したシステイン残基間の共有結合(ジスルフィド結合)によって安定化されています。

    PAGEは、変性条件下においても実施することができ、通常は、モル過剰量のイオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いて実施します。これは一般的にSDS-PAGEとして知られています。

    <テクニカルヒント>

    ・検出対象の抗原の予測分子量に対し、ゲルのアクリルアミド濃度が適当であり、ゲル調製の直前にアクリルアミド溶液が脱気されていることを確認しましょう。

    ・ゲルをマニュアル調製している場合には、分離を最大にするため、必ず使用の前日にSDS-PAGEゲルを作製し、電気泳動時には、完全に重合しているようにしましょう。

    ・ゲルの重合の触媒には、新鮮なペルオキソ二硫酸アンモニウムとテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を使用しましょう。

    ・サンプルをロードする前に、ゲルのウェルを十分にすすぎましょう。

    ・各ウェルのタンパク質量は1×SDS-PAGEサンプルバッファー中で、総細胞または組織溶解液であれば10~50 μg、精製されたタンパク質であれば0.1~1.0 μgが標準的です。

    ・サンプルを非変性または非還元条件下で泳動する場合には、サンプルバッファーにβ-メルカプトエタノールやDTTを入れないようにします。

    なお、染色済みの分子量マーカーの泳動は、サイズに忠実ではないことが多いようです。抗原の分子量を正確に測定する場合には、未染色の分子量標準品も泳動することをおすすめします。

    サンプルは、ゲルにアプライする前に、50~65℃で10~15分加熱。メンブレントランスファーのステップの間に、ゲルからメンブレンへのタンパク質のトランスファーをモニタリングするために、1つのウェルに染色済みの分子量マーカーを泳動しておくと便利です。これは、トランスファーの際にゲルの向きを知る助けにもなります。

    電気泳動装置のメーカーの規格に従ってサンプルをポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、分子量によってタンパク質を分離。ブロムフェノールブルー色素の先端がゲルの底に達した時点で電気泳動を終了します。

  3. メンブレントランスファー

    SDS-PAGEによって分離したタンパク質を、ゲルからメンブレンにトランスファーします。

    より効率的で広範に用いられているトランスファー方法は、エレクトロブロッティングです。この手順では、ゲルとメンブレン(ニトロセルロースまたはフッ化ポリビニリデン[PVDF])をろ紙でサンドイッチしたものをカセットで圧迫し、2本の並行な電極の間になるようバッファーに浸漬。ゲルと直角に電流が流れ、分離したタンパク質がゲルからメンブレンに電気泳動されます。タンパク質がメンブレンにトランスファーされると、メンブレンは「ブロット」と呼ばれます。

    特定の抗原がメンブレンにトランスファーされる効率は、使用したメンブレンのタンパク質結合能、適用したトランスファー方法や条件、抗原自体の性質に依存します。トランスファーの効率を最大化するために、標的抗原の物理特性をよく知っておきましょう。トランスファーの効率に関して、最も重要な特性は、抗原のサイズ(MW)と疎水性です。

    小さなポリペプチドは速く泳動されます。ゲルを離れてメンブレンに接触する際に、依然として相当量のSDSによってコーティングされているので、メンブレンに対するタンパク質の結合効率が低下してしまう恐れがあります。逆に高分子量の抗原では、一般的により長いトランスファー時間が必要となります。通常は、タンパク質が疎水性であるほどメンブレンへのトランスファーが難しくなります。

    タンパク質をゲルからメンブレンにトランスファーするためにはSDS-PAGEの後に、標準的なタンクトランスファーまたはセミドライブロッティングシステムを用いて、エレクトロブロッティングのためにゲルを調製します。一般的に、以下の層を順番に重ねたトランスファー「サンドイッチ」を構築します。

    陰極(-)末端
    1) スポンジまたはフォームパッド
    2) トランスファーバッファーに浸漬したろ紙(3枚)
    3) 分離済みのタンパク質を含むゲル
    4) メンブレン(ニトロセルロースまたはPVDF)
    5) トランスファーバッファーに浸漬したろ紙(3枚)
    6) スポンジまたはフォームパッド 陽極(+)末端

    <テクニカルヒント>

    ・メンブレンとろ紙(6枚)を、ゲルに正確に合うように切断します。

    ・コンタミネーションを避けるため、メンブレンの取扱い中は常にグローブを着用することが重要です。

    ・トランスファーバッファーに浸漬したろ紙は、ゲルをガラスプレートまたはプラスチックカセットから注意深く外し、その後ゲルをメンブレンに移す際に用いることができます。

    ・ゲルとメンブレンの間にあるすべての気泡を取り除きます。ゲル/メンブレンのサンドイッチの表面上に、試験管やパスツールピペットを転がすと、容易に気泡を取り除くことができます。

    ・トランスファー時間が長時間である場合には、過熱やバッファーの腐敗を避けるために、エレクトロブロッティングを4℃で実施することをお勧めします。

  4. 非特異的結合の阻害(ブロッキング)

    タンパク質をメンブレンにトランスファーしたら、抗体や検出法によって視覚化する前に、メンブレンに残っている疎水性結合部位をブロックする必要があります。

    ブロッキングバッファーで、37℃で30分間、または室温で1時間インキュベーションすると、メンブレンが十分にブロッキングされます。これによってバックグラウンドが減少し、一次抗体によるメンブレン自体への非特異的結合が防止されます。

    ブロッキングバッファーの一般例

    ・10%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)
    ・Trisまたはリン酸緩衝食塩水に溶解した5%脱脂粉乳(スキムミルク)
    ・バックグラウンドノイズの最小化によって、シグナル対ノイズ比を改善する場合があるタンパク質を含有しないBløkTM試薬などのブロッキング試薬

    なお、ブロッキングバッファーに一次抗体や二次抗体によって認識される可能性がある抗原が含まれていないことを確認しましょう。例えば抗リン酸抗体を用いる場合、リン酸緩衝食塩水(PBS)ではなく、Tris緩衝食塩水(TBS)を用いる必要があります。PBSが抗体に対して非特異的な免疫反応を示す恐れがあるためです。

    <テクニカルヒント>

    リン酸化特異的な検出のために特別に設計された、タンパク質を含有しないブロッキング剤を用いると、リン酸化タンパク質検出中のバックグラウンドノイズを最小化できる可能性が高くなります。

  5. 抗体の添加

    一次抗体を、Trisまたはリン酸緩衝食塩水で希釈します。ブロットからブロッキングバッファーを移し替えた後、メンブレンを希釈した一次抗体と37℃で30分間、室温で1時間、または4℃でオーバーナイト、緩やかに撹拌しながらインキュベーションします。

    一次抗体とインキュベーションした後、二次抗体を添加する前に、ブロットを洗浄バッファー(0.1% Tween® 20を加えたTrisまたはリン酸緩衝食塩水)を変えながら数回洗浄。その後、上記と同様にメンブレンを標識二次抗体とインキュベーションします。

  6. 検出

    検出は、一次(または二次)抗体に結合した標識によります。ウェスタンブロットで最も一般的に用いられる抗体標識は、アルカリホスファターゼやホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素で、化学発光基質を用いた発光反応、または発色基質(色素原)を用いた発色反応のいずれかを触媒します。

    化学発光シグナルは、ブロットをX線フィルムに露光することによって検出可能となりますが、発色シグナルは視覚的に検出することができます。

    蛍光検出では、酵素活性部位で蛍光を発する蛍光プローブ標識抗体または蛍光発生基質のいずれかを用います(化学蛍光)。蛍光シグナルは長期間安定なので、ブロットを保管し、再度画像化することができます。また、多様な蛍光プローブが利用できるため、単一のサンプルから複数のタンパク質標的を同時に検出することが可能です(マルチプレックス検出)。

    化学発光法などの一部の抗体検出システムは非常に感度が高いのですが、発色基質を用いるものなどでは感度が低いものもあることを覚えておきましょう。一次抗体の適切な作用濃度は、一次抗体の結合特性によって異なり、使用する検出システムの種類によって大きく左右されます。

    発色検出システムに適切な一次抗体の希釈率を最適化せずに化学発光検出システムに当てはめた場合、高いバックグラウンドノイズが認められることがよくあります。このような感度の高い検出システムでは、至適な希釈率を判定するために、追加的な一次抗体の希釈系列を作製する必要があります。同様に、化学発光検出システムに適切な一次抗体の希釈率を発色検出システムに用いると、検出不能な低いシグナルしか認められない可能性があるので気をつけましょう。

以上、ウェスタンブロットの基本的な流れを概説しました。実験の細かいコツやトラブルシューティングなどについては、メルクのページにも解説が載っていますので、ぜひそちらも参考にしてみてくださいね。

 

 

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