バッファー使用時の注意点と選択のポイント(バッファーの基礎知識)

バッファー使用時の注意点と選択のポイント(バッファーの基礎知識)

生体内の環境を理解して最適なバッファーを選択しよう

生命活動を担う生体分子のほとんどは、生体内の体液の中で反応を起こし、その作用はpHに依存してます。ライフサイエンス研究を成功させるためには、体液や生体分子の化学的性質をよく理解しておくことが重要です。 それでは、生物の体の中では、どのような緩衝作用が働いているのでしょうか。生体内の緩衝系について見ていきましょう。 生体内緩衝系は大きくわけて次の4種類に分類できます。

  1. 重炭酸緩衝系

  2. リン酸緩衝系

  3. ヘモグロビン緩衝系

  4. 血漿タンパク質緩衝系

この中で、生体内で最も重要な緩衝系は、体液を緩衝する重炭酸緩衝系です。この系では以下のような反応が起こっています。 生体内のpHが低くなると、この式の平衡は右に傾き、二酸化炭素が発生します。緩衝作用をもつほかの多くの分子は形態を変化させることはありませんが、重炭酸イオンは二酸化炭素となり体外から排出され、緩衝系から除去されます。陸生の動物は二酸化炭素が持つこの特別な性質をうまく利用して、生体内のpH を調節しているのです。 また、次に重要なのがリン酸緩衝系です。細胞内は細胞外と比較してリン酸濃度が高く保たれており、リン酸緩衝系は細胞内の緩衝作用を担っています。ここで活躍する主な分子は「リン酸化物イオン」です。 次に、ライフサイエンス実験に適したバッファーの条件を見ていきましょう。

ライフサイエンス実験用バッファーの条件

ライフサイエンス研究のために用いるバッファーは以下の一般的基準を満たす必要があります。

  1. pKa:6.0 ~ 8.0

  2. 水に対する溶解度が高く、有機溶媒に対する溶解度は低い

  3. 細胞膜を透過しない

  4. 細胞毒性がない

  5. 生体内作用に干渉しない

  6. 必要なときは塩を添加可能

  7. イオン濃度と温度から受ける影響が低い

  8. 酵素に対して安定で分解されない

  9. 可視光ならびに紫外線を吸収しない(光化学反応性が低い)

またバッファーの種類によっては、特定の実験に適さないことがあります。

  • クエン酸バッファーリン酸バッファー:カルシウムイオンがキレートされるため、カルシウムイオンを利用する化学反応には適さない。

  • リン酸バッファー:リン酸が酵素反応を阻害するので、ある種の酵素反応には適さない。

  • TrisACESBESTESバッファー 銅イオンがキレートされるため、銅イオンが必要な酵素反応には適さない。

  • Tris系バッファー:インスリン代謝経路には適さない。

  • HEPESおよびHEPPS Lowry法などのFolin試薬を使用する反応には適さない。

  • 1級アミンバッファー(Trisなど):ブラッドフォード反応には適さない。

  • ホウ酸バッファー:タンパク質ゲル電気泳動には適さない。

バッファー使用時の注意点と選び方のポイントまとめ

以上、バッファーを使用時の注意点と選び方のポイントを紹介しましたが、もちろんここで紹介したことがすべてではありません。試薬の組み合わせや、サンプルの性質によって、適切なバッファーの条件は変わってきます。いつものバッファーではうまくいかないときは、実験条件を見直し、生体内の環境と比べてみると、トラブルの原因が見えてくるかもしれません。自分が使う実験試薬やサンプルの化学的な性質をよく理解して、研究を確実に成功させていきましょう!

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